第3話 集団下校 -1-
――三日後。
「おぃっすー」
昼休憩、俺のところにシゲがやって来た。
「おぅ、シゲ」
「あのさー、大地。ちょっと頼みがあんだけど」
「んっ?」
なんだか深刻な顔をしているシゲにちょっと驚いた。
「帰りさ……一緒に帰ってくんねぇ?」
「は?」
「俺と鈴と一緒に……」
「え? え? なんで?」
(どうして俺が付き合い始めのカップルの間にわざわざ入らなきゃいけないんだ?)
「いや、それがさー……鈴と付き合う事になって一緒に帰るのはいいんだけどー、
どうも会話が弾まなくて……」
「会話が続かないのか?」
「続かないどころか会話すら成り立ってないと言うか……」
「小峯ってそんなに無口な子なんだ?」
確かに彼女は見た目大人しそうだけど。
「鈴ちゃん、別に無口じゃないよ?」
そう言って横から入ってきたのは隣の席に座っている織田ちゃんだった。
「まだ付き合い始めたばっかりだから緊張してるだけじゃない?」
「んー、そうなのかな?」
「そうよ」
「じゃあさ、鈴が慣れるまででいいから大地、俺達と一緒に帰ってくれっ」
シゲはそう言うと両手を合わせて拝んだ。
「なら、あたしも一緒に帰ってあげる♪」
すると織田ちゃんも一緒に帰ると言い出した。
「なんで、おまえまで?」
「イズミと高津君が話してる時、鈴ちゃんが暇なんじゃないかなぁー? って」
「あー、なるほど」
「んじゃ、決まりっ♪」
織田ちゃんはなんだか楽しそうに言った。
……で、何故か俺達四人での“集団下校”が決定した。
「て、俺と大地が喋ってたんじゃ意味ないし」
「けど、最初はあんまり深く考えずに普通に四人で喋りながら帰る方が良いんじゃないか?」
「確かにその方が鈴ちゃんも気が楽かもね。それに四人横並びで歩く訳じゃないし、
高津君と鈴ちゃん、あたしとイズミで歩けば普通に会話出来るんじゃない?」
「え、俺、帰る時まで織田ちゃんの隣っ?」
「何? あたしが隣で何かご不満?」
「いや、そーゆーワケじゃないですヨ」
「うわー、不満いっぱいの言い方……」
「てか、部活以外ずっと一緒だなと思って」
「夫婦みてぇー」
シゲはクスクス笑った。
でも、ホントにその通りだ。
学校にいる間中、ずっと織田ちゃんと一緒。
(この上、帰りまで一緒って……)
「つーか、夫婦じゃねぇしっ」
「けど、俺は大地と織田ちゃん、結構いいコンビだと思うけどなー?
付き合っちゃえば?」
シゲは本気なのか冗談なのかにやにやしている。
「あたしは全然OKだけどー?」
織田ちゃんまでこの調子だ。
「……」
俺は何も言葉を発する事が出来なかった。
別に織田ちゃんの事は嫌いじゃない。
だけど“ノリ”で付き合ったりなんかすると、後々彼女を傷付ける事になるかもしれないし、
かと言って、『俺は嫌だ』なんて言い方をするのもどうかと思った。
(この場合、どう答えればいいんだろう?)
「……イ、イズミ、そんな考え込まないでよ。冗談なんだからー」
すると、俺が余程考え込んでいるように見えたのか、織田ちゃんが苦笑いしながら言った。
「大地は時々、冗談が通じないんだよなー。ま、そこが俺的にはまた好きだけど」
「……もー、からかうなよ」
逆に俺はこの二人が“いいコンビ”だと思う。
だって、こうして時々結託して俺を苛めて楽しんでいるんだから――。