第29話 お兄さんと中国少女 -4-
「うぃっす」
五分後、『お兄、お姉喫茶』に宮田先輩が入って来た。
つい先程、和泉沢先輩が携帯で「お客が少ないから来て」と呼び出したのだ。
「おかえり、晃司」
和泉沢先輩はそう言ってにっこり笑うと、朋ちゃんの隣に宮田先輩を座らせた。
最初は私が朋ちゃんの隣に座っていたのだけれど、宮田先輩が来る前に
私は和泉沢先輩の隣に移動したのだ。
「ども」
朋ちゃんは宮田先輩が隣に座ると顔を赤くしながら会釈した。
「……」
そして宮田先輩も黙ったままだったけれど、朋ちゃんに視線を向けながら軽く会釈をした。
「晃司、鈴の事は知ってるよな?」
「はい、先輩の彼女ですよね?」
宮田先輩とは、何度か和泉沢先輩と一緒に帰っているところを目撃されている。
だから私の事はなんとなく知っていたのだろう。
「そそ、んで、今おまえの隣にいるのが鈴のクラスメイトで新井朋美ちゃん。
ちょうど今、来てくれたところなんだよ」
和泉沢先輩はさり気なく朋ちゃんを紹介した。
「よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
宮田先輩と朋ちゃんはお互いそう言うと自然に話し始めた。
「あの二人、結構気が合うみたいだな」
私の耳元に和泉沢先輩が囁いた。
朋ちゃんは明るい性格。
一方、宮田先輩は無口ではないけれど、わりと大人しい方。
だから最初は大丈夫かな? と、思っていたけれど……、
「そうですね」
朋ちゃんと宮田先輩は、ほぼ朋ちゃんがリードする形ではあるけれど楽しそうに会話していた。
「ところで、織田先輩はどこにいるんですか? 先輩と一緒の時間帯に模擬店にいるって
聞いてたんですけど」
「あー、織田ちゃんなら、ホラ、あそこ」
「……え……?」
和泉沢先輩が指差した先には確かに織田先輩がいた。
いたけれど……
「な、なんで織田先輩あんな格好してるんですか?」
「織田ちゃんは“萌えキャラ”っていう設定だから」
「はぁ……」
私の視界の中にはフリフリのメイド服を着て、髪もツインテールにしてリボンを着けた
織田先輩が映っていた。
中学生くらいの男の子二人を相手にニコニコしながら「はい、あ~ん♪」と、
オムライスを食べさせてあげている。
「なんかノリノリでやってますけど……」
「うん、織田ちゃん、この日の為に秋葉のメイド喫茶に行って研究してきたらしいよ?
しかも、オムライスの上にケチャップでハートを描くのも家で練習したって言ってたし」
「す、すごいですね」
意外に織田先輩は完璧主義なのかもしれない……――。