第28話 ファーストキス -1-
鈴は俺にからかわれて、ちょっとだけ怒ったように上目遣いで見上げていたけれど、
シゲの事を話すと何かを思い出している様だった。
それがいつの事なのかわからないけれど、そんな鈴の表情を見ていると思わず抱きしめたくなった。
「鈴……」
(シゲとの事、思い出すなよ……)
なんとなくシゲと付き合っている時の事を思い出しているんじゃないかって思った。
頭を優しく撫でると初めて触れた彼女の髪は俺が思っていたよりも柔らかかった。
以前の俺なら、こんな風に髪に触れる事も出来なかった。
けれど、お互いの気持ちを確かめ合って付き合うようになった今、抱きしめてキスをする事だって……
「せ、先輩……?」
頭を撫でていた右手を肩に回して抱くと鈴は驚いた顔で視線を絡ませた。
そして、キスをしようと俺が顔を近づけると彼女がちょっとだけ顔を背けた。
(え……? 嫌がってる?)
「あ……ご、ごめんなさいっ、つい……」
「……つい?」
「じょ、条件反射で……」
「……」
(そういえば、鈴って結構反射神経良かったんだっけ?)
「……ごめんなさい」
「嫌?」
「そんな事ないですっ、ただ、ちょっとびっくりしちゃってそれで思わず……」
「じゃ、目瞑って?」
「?」
「瞑ってたら、条件反射しないだろ?」
「はい」
鈴はそう返事をするとゆっくりと目を閉じた――。
鈴と二度目のキス。
でも、今回は前回のような事故的なものじゃない。
「……」
唇を離すと鈴が恥ずかしそうに目を伏せた。
「あのさ……鈴」
「はい」
「ファーストキスっていつ?」
「えっ?」
「いや……なんか気になったから」
「三ヶ月前、です」
「それって、今年の六月って事?」
「はい」
「……もしかして、シゲ?」
俺が知らないだけで実はシゲとはとっくにキスをしていたのかと思った。
しかし、鈴は首を横に振った。
「え……じゃ、誰?」
「え、と……先輩、です」
恥ずかしそうに一瞬だけ横目で俺に視線を移す。
「へ?」
(俺っ!?)
「まさか、体育祭の前の日、テントが風で煽られて倒れた時の?」
「……はい」
「てか、あれを“初めて”にしちゃダメだろ」
「え」
「ちなみにー……なんだけどさ……」
「はい?」
「シゲとはキス、した?」
「いえ、してませんっ」
「そか。て事はさっきのキスが“初めて”か。まぁ、それなら、どっちにしろ相手が俺だからいいけど。
いや、よくねぇな。やっぱ、さっきのが“初めて”」
俺がそう言うと鈴は嬉しそうに頷いた。