第19話 個人授業 -1-
――数日後。
今日も朝から雨、雨、雨。
昨日もずっと雨で夜になって一旦止んだけれど、明け方からまた降り始めた。
おかげで二日連続で部活もなし。
(図書館にでも寄って帰るかなー)
一応、今年は受験生。
まだ夏休み前だけど、普段部活ばっかりやっているから時間がある時に
少しずつ勉強しておかないと。
◆ ◆ ◆
図書館の中はさすがにシーンと静まり返っていた。
俺と同じ様に制服を着ている人もたくさんいる。
そして勉強を始めて三十分くらい経った頃――、
……RR、RR、RR……
誰かの携帯が鳴った。
短いメールの着信音だけど物音一つしない図書館の中、耳を劈くように響いた。
(おいおい、ちゃんとマナーモードにしとけよー)
図書館の中にいる誰もが同じ事を思っているだろう。
俺は少しだけ顔を上げた。
すると、カバンの中から慌てて携帯を出している女の子がいた。
(あの子か)
足元からゆっくり顔を確認するように視線を上に上げていくと、
紺のハイソックスと紺のスカートが見えた。
上はセーラー服……て、うちの学校の制服じゃん。
しかもテニスラケットを持っている。
(ん? テニスラケット? まさか……)
「小峯っ」
俺は思わず声をあげた。
図書館の中にいる人達が一斉に振り返る。
(あ、やば)
「せ、先輩」
「よぅ」
俺と小峯は小声で話し始めた。
「小峯、携帯持ってないって言ってなかったっけ?」
彼女の手にはさっき鳴った携帯が握られていた。
「はい、そうなんですけど、昨日買って貰ったんです」
そう言うと彼女の手の中でまた着信音が鳴った。
そしてまたみんなが振り返る。
「マナーモードにしとけば?」
「はい、そうしたいんですけど……」
「?」
「やり方がわからなくてー……」
(え……)
「説明書が分厚すぎて、昨夜読んでるうちに寝ちゃったんです」
(ぶっ、可愛い)
「ちょっと貸して」
「はい」
小峯の携帯は俺と同じ携帯会社で同じメーカーの最新機種だった。
「この機種なら俺のと同じメーカーだから説明書がなくてもある程度は教えてやれるぞ」
「ホ、ホントですか?」
「あぁ、とりあえず場所を変えよう」
そんな訳で俺と小峯は図書館を出る事にした――。
◆ ◆ ◆
「さてと、じゃあまずマナーモードのやり方から」
俺と小峯は図書館のすぐ目の前にあるファーストフードに入り、並んで座った。
「はい、よろしくお願いします」
「マナーモードはここ、“♯”ボタンのとこ。“マナー”って書いてあるだろ?」
「あ、ホントだ」
「ここを長押し」
「はい」
小峯はさっそくマナーモードに設定し、「できたーっ」と嬉しそうに言った。
「で、普通に戻したい時はもう一回“♯”を長押しすると解除されるから」
「うわぁ、簡単ですねー」
「うん、基本的に操作は全部簡単だよ」
「うー、こんなので一日中悩んでたなんてー……」
「あはは、最初は誰でもそうだよ」
(一日中悩んでたのか……)
「じゃー、次は……何が知りたい?」
「えーと、メールの打ち方を教えてください。今朝からさっそくメールが来てるんですけど
まったく知らない人からで『今日、会えませんか?』とか『私の事、覚えてますか?』とか……、
多分、誰かと間違えてるんだと思うんですけど、そういうのってやっぱり
『間違えてますよ』って返してあげた方がいいですよね?」
小峯はそう言うとメールを開いて俺に見せた。
「んー? て、コレ……」
俺はメールの内容を見て絶句した。