第15話 救出 -2-
「俺達、急いでるんで」
和泉沢先輩はそう言うと、訳がわからずオロオロしているだけの私の手を取って踵をあげた。
「いいじゃん、ちょっとくらい」
しかし、大学生のお兄さん二人もなかなかしつこい。
「いいけど、兄さん達、さっきからずっと撮られてるのわかってる?」
すると和泉沢先輩は大学生達の方に視線を移した。
「防犯カメラ」
「「え……」」
「ここ、駅前だから防犯カメラでばっちり警察とかから監視されてて、
あんまりしつこいと“悪質な勧誘”と見做されて捕まっちゃうよ?」
「「……」」
大学生達は無言で顔を見合わせた。
そして、その様子を見た和泉沢先輩はそのままスタスタと歩き始めた。
「あ、あの……っ、ありがとうございました」
駅の構内に入り、私がそう言うと和泉沢先輩がピタリと足を止めて振り返った。
「小峯」
「は、はいっ」
(怒られる……っ)
私はてっきり先輩に叱られると思い、ぎゅっと目を閉じていた。
だけど……
「大丈夫か?」
先輩は優しい声でそう言ってくれた。
「……は、はい」
ちょっと意外だった。
でも、次の瞬間、先輩は溜め息をついた。
「しっかし……おまえはホンットに“嫌”って言えない性格なんだな?」
「すいません……」
(先輩、きっと呆れてるんだろうな……)
自分でもこういう性格が時々嫌になる。
「やっぱり……呆れてます、よね?」
「うん、ちょっと……」
「……」
(あぅー……)
「まぁ、小峯のそーゆートコ、俺は嫌いじゃないけど?」
「ほぇ?」
「でも、次から勧誘に遭った時は『興味ありません』て、ハッキリ言うんだぞ?」
「あ……は、はいっ」
「そうすれば、だいたいは『そうですか』って言って、くっついて来ない。
けど、さっきみたいな性質の悪い勧誘の場合は……ホラ、あそこに交番が見えるだろ?」
和泉沢先輩はそう言って構内からも見える駅前にある交番を指差した。
「頑張ってダッシュであそこに入っちゃえ。さっきの兄さん達みたいに二人くらいなら、
なんとかなるだろ?」
「はい」
「まぁ、あぁいうのは滅多にないとは思うけど、一応逃げる手段な?」
「はい」
和泉沢先輩はすごく優しい目で言った。
“ちょっと呆れてる”と言ったけれど、決して私の事をバカにしてるとかそんなんじゃなくて、
なんて言うか……私の事を本当に心配してくれている感じがした。
……多分、私の思い込みなんだろうけれど。