第13話 交換 -2-
教室に戻り、席に座った私は自分の手の中にある牛乳を見つめた。
和泉沢先輩と交換した牛乳。
なんだか飲んでしまうのがもったいない。
でも、夏も近いこの季節、飲まずに置いておいたら間違いなく教室の中が
“異臭騒ぎ”なってしまうだろう。
……プス――、
ストローを牛乳パックに刺して一口飲むと、いつもと同じはずの牛乳は
ちょっぴり甘い味がした――。
◆ ◆ ◆
「よぅっ」
部活が終わった帰り、駅のホームで電車を待っていると私の隣に誰かが並んだ。
「あ」
和泉沢先輩だった。
「今日は女子テニス部、コートにいなかったから休みなんだと思ってた」
「視聴覚室で反省会してたんです」
「あー、昨日の試合?」
「はい……て、先輩、どうして昨日、試合があったの知ってるんですか?」
(織田先輩に聞いたのかな?)
「え……俺、昨日居たじゃん、試合会場に」
「へっ!?」
(ウソッ!?)
「気が付かなかった?」
「はい……」
「嘘だろぉー? 俺、小峯の試合も見たけど。てゆーか、小峯の試合しか見てないけどな」
(えぇっ!?)
「他の人の試合は見なかったんですか?」
「織田ちゃんに応援に来いって言われて昼頃行ったら、ちょうど小峯の試合があるって言うから」
「あっさり負けちゃいましたけど……」
「でも、自分の力を目一杯出せたんだろ?」
「はい」
「なら、いいじゃないか。力を出し切れずに負けるよりはずっといい。
それにおまえの対戦相手って優勝候補だったんだろ?
だったら逆にそんな相手と対戦出来てよかったじゃないか」
「?」
「だいたい優勝候補にぶち当たるのは、それこそ準々決勝以降くらいだし、
それが早々に当たって対戦出来たのはいい経験だと思うぞ?」
(先輩……)
彼がそんな事を言うなんて、少し意外だった。
「あれ? 俺、今、なんか変な事言った?」
「いえ……そうじゃなくて、なんか他の人とは違う事言ったから」
「何それ?」
「周りのみんなは『優勝候補が相手じゃ仕方がない』とか『よくやったと思う』しか
言わなかったんですけど、先輩はなんか別の角度からって言うか……、
みんなとは違う目線って言うか……なんか、そんな風に考えられるのってすごいなって思いました」
「ははは、そうかー?」
先輩は照れ隠しなのか笑って誤魔化した感じだった。
だって、耳が赤くなっていたから。
(先輩ってなんか可愛い♪)