第11話 共犯者 -1-
部活の休憩時間、シゲがボーッとしながらテニスコートを見つめていた。
その視線の先には小峯がいる。
(おいおい……いくら休憩時間だからって“彼女”に見惚れてんじゃねぇよ)
「シゲ」
「……」
シゲは俺の声が聞こえていないのか、まったくの無反応だ。
「シゲ」
俺は遠くから声を掛けているわけでもなく、すぐ隣にいる。
小声で呼んでるわけでもないのに。
「おい、シゲ!」
今度はペチンとおでこを叩いてやった。
すると、さすがにこれには反応した。
「な、何だよ?」
「何、ボーッとしてんだよ?」
「……」
「さっきも全然シュート決めてなかったし、パスも通らねぇし、ボールキープも出来てねぇし、
なんか今日はおまえおかしいぞ? 小峯と何があったか知らねぇけど部長なんだから
しっかりしてくれよな」
「おぅ……悪い」
シゲはそう言うと溜め息を吐いた。
(うわぁー……絶対コレ、小峯となんかあった顔だ……)
シゲの深い溜め息と覇気のない横顔で俺はピンときた。
そして、その勘は見事に当たった。
部活が終わった後、部室に入ってもシゲは着替えもしないで座ったままだった。
だが、他の部員達が帰って俺とシゲの二人だけになった時、
「フラれた……」
シゲがぽつりと呟いた。
「へ?」
(フラれた?)
「土曜日の帰りにさ、鈴に日曜日会いたいって言ったんだけど予定があるって断られて、
それは俺もいきなり前日に言ったから仕方ないと思ったんだけど……、
『来週の日曜日は空けておいてね?』って言ったら、鈴、返事をしなかったんだ」
「……」
「それで、『俺と会うの嫌なのか?』って訊いたら……『ごめんなさい』って謝られて
俺とはこれ以上付き合えないって言われた」
「な、なんで?」
(嘘だろ?)
「その時は結局、何も答えなかったんだけど、今日の昼休憩に鈴と
もう一回話をしたらさ……断れなかったんだってさ」
「何を?」
「俺が鈴に付き合ってくれって言った時、俺とおまえと織田ちゃんの三人に囲まれて
怖くて何も言えなかったって。それに他の部員達も見てたし」
「……」
(てコトは、俺も共犯……?)
「鈴、他に好きな奴がいるんだってさ」
「えっ!?」
「本当は好きな奴がいるのに、俺と付き合ってるのが苦しかったって……泣きながら何度も謝られた」
「それって……誰なんだ?」
「名前は言わなかった。でも『俺が知ってる奴?』って訊いたら黙ったまま否定もしなかったから、
多分知ってる奴」
「そっか……なんか、悪かったな。何も知らずにボーッとすんなとか言って」
「いや、おまえの言う通りだよ。部長なんだからしっかりしないとな? 試合も近いんだし」
シゲはそう言うと、やっと立ち上がって着替え始めた。
「でも、鈴には悪い事したな……いきなり鈴の気持ちも訊かずに付き合う事になったんだから」
「俺達、そんなに怖かったのかな?」
「んー……先輩三人に囲まれると嫌だとは言えなかったのかもな」
そして、シゲと小峯は“恋人同士”から“先輩後輩”に戻った。
意外に……早かった。
なんだかんだと言っても、てっきり二人はうまくいってるんだと思っていた。
“偽善者”の俺はシゲと小峰が別れた事を聞かされて複雑な思いだった。
(それにしても、小峯が好きな奴って誰なんだ?)