冒険者ギルド酒場のリサは、なびきません~常連さんたちの甘さは過剰です~
冒険者ギルド酒場のリサは、なびきません~常連さんたちの甘さは過剰です~
短編です。
もし続きにご興味あれば
教えてくださると嬉しいです。
前世で睡眠も休日も仕事に捧げてきたリサは、三十代の日本人だったはずだ。
今は、魔法と冒険の異世界で生きる二十六歳。
名前は、リサ・コーエン。
王都冒険者ギルド内酒場
[ねぎらいの酒処]の
看板娘である。
異世界に転生した
彼女が手に入れたのは、
勇者の力でも、
聖女の加護でも、
王族の血筋でもなかった。
前世でずっと憧れていた、
理想的な豊満さと健康的な体。
神様は、
前世での無いものねだりを
聞いてくれたのだろう。
ただし、
それ以外のチートはない。
魔力は微量。
身分もなし。
剣も魔法も向いていない。
完全に一般人である。
けれどリサは、
それでいいと思っている。
[ねぎらいの酒処]で酒を注ぎ、
小皿料理を出し、
冒険者たちの愚痴を聞く。
疲れて帰ってきた人が、
明日もまた帰ってこられる
場所を作る。
ただし、
飲ませすぎません。
食べさせすぎません。
財布も体も心も、
常連の大事な資産である。
今日だけ搾り取って、
明日来られなくなったら
意味がない。
仕事をして、
ごはんを食べて、寝る。
これが一番の幸せの形だと、
リサは思っている。
だから、
恋なんてしちゃいません。
ええ、私の心臓と肝臓に悪い。
休みはゴロゴロしたい。
キュンキュンより、
手羽先でギトギトの方がいい。
冒険者ギルドの受付横にある
広いラウンジスペース。
そこが私の仕事場、
[ねぎらいの酒処]である。
受付対応の待ち時間に。
依頼達成後の一息に。
昼から開店し、
夜まで賑わう人気のお店だ。
「リサ」
「あっ、ルカ。今、昼休憩?」
昼間の受付が忙しい時間が、
やっと過ぎたらしい。
ギルド受付職員も、
今が休憩時間なのだろう。
ルカは私の幼馴染だ。
「とりあえず
果実水ちょうだい」
「わかった」
「おまえも仕事中、
飲み物飲んでないだろ?
リサの分も注文するから
飲んどけ」
「なんで分かったの?」
「リサは忙しいと
自分を後回しにするだろ。
俺は知ってる」
注文を取りに来た私の肩に、
ルカの手が軽く触れた。
揉むというほど強くはない。
ただ、労わるみたいに、
少しだけ。
そのまま、
ゆっくり足並みを揃えて
カウンターへ向かう。
「リサちゃん、
いい旦那さん候補じゃないか」
依頼討伐が早く終わり、
昼エールを楽しんでいた
冒険者のバルトさんが
笑顔で言った。
「そうだよな、バルトさん」
ルカが笑顔で返す。
「待って。
幼馴染なだけですよ。
バルトさんも知ってるでしょ」
常連のバルトさんが、
完全に私たちを
酒のつまみにしている。
「近い、ルカ」
「優しい旦那様候補は
大事にしてね」
ルカは、
私が果実水を
グラスに入れているすぐ横、
カウンターの端に座った。
「お客様、
果実水の他に
何かご注文はありますか」
私はすんとした微笑で、
そっとルカの前に果実水を
差し出した。
「嫌だった?
リサを大事にしたいだけ」
カウンター端に座ったルカが、
少し悲しそうな表情をする。
「…嫌ではないけど、
恥ずかしい。
注文を先にして」
恥ずかしいので、
お盆で口元を隠した。
「おすすめは?腹減ってるから、なんでもいい」
「お腹空いてるなら、
ミートボールをパンに挟んで、
チーズをのせちゃおうか」
「美味しそう。さすがリサ」
「はいはい。ありがとう」
「果実水飲む?
俺の注文に入れていいのに」
「お客様に悪いです。
今、水を飲むから大丈夫。
ありがとう」
今日のルカは近いし、
ご機嫌に絡んでくる。
大事にしたいとか、
幼馴染に言う言葉じゃない。
甘い攻めは、顔を火照らせる。
「リサ、
幼馴染くんのはリサが作るか?」
厨房で、
店主兼料理長のモレさんが
声をかける。
「私がやりますよ。
朝準備しておいた
トマト煮のミートボールを
使うから簡単です」
「モレさん、
酢の物と角煮の準備
してるでしょ」
「助かる」
こっちの食材でも
作れる前世の食べ物を、
私はちょこちょこメニューに
加えている。
バゲットにミートボールを並べ、マリネした刻み玉ねぎと
チーズをのせて温める。
隣には、
同じく酢漬けした細切りニンジンを付け合わせる。
完成だ。
「お待たせしました。どうぞ」
「早かったね。ありがとう、
リサ」
「幼馴染くん、
リサ特製サンドイッチだぞ。
よかったな」
「言わないで、モレさん」
モレさんが、
わっはっはと笑いながら
キッチンから顔を出した。
「リサを奥さん候補に
したいんだけど」
「ルカ、今日は甘いが過ぎる。温かいうちに食べてください」
「幼馴染くん、
今日調子いいね。
でもリサちゃん、
人気だからなぁ」
バルトさんは、
エールが進んでいた。
「バルトさん、
よかったら酸っぱさ増量した
酢の物はどうですか?」
「はははっ、もらおう」
その時、涼やかな声がした。
「リサさん、
私にはまず白ワインと
普通の酢の物をいただけますか」
魔術大学の助教授、
アッシュ先生が来た。
「かしこまりました。
アッシュ先生は、
いつもの席に座られますか?」
「今日は
カウンターにしようかな。
客も多くはないから、
君の近くがいい」
「すぐ
白ワインをお持ちしますね」
はい、流します。
こちらからも
糖質提供されてしまうと、
身がもちません。
アッシュ先生も常連だ。
落ち着きのある雰囲気の中に、どばっと砂糖を振りかけてくる。
私は恋をしたくない。
心臓もうるさいし、
今の関係も、
環境も幸せだからだ。
何かが変わるのは、少し怖い。
甘い言葉に、なびきません。
だけど、響きます。
正直、弱いです。
冷えた白ワインを、
アッシュ先生の前に
そっと置いた。
「白ワインです。どうぞ」
少し動揺して、
しっかり目を合わせられない。
「リサさんが
意識してくれている姿は
可愛いな」
アッシュ先生は
グラスを受け取り、
静かに私を見た。
落ち着いた声なのに、
大人の色気が
少し出ている気がする。
危険だ。
「やっぱり先生も、
酸味増量バージョンの酢の物に変更しますか?」
「リサさんが
私に食べさせたいなら、
そうします」
「リサちゃん、
今日は先生も調子いいな」
「バルトさん、
お水をちょっと
飲んでおきましょうか」
「先生、リサが困ってるだろ。旦那様候補は俺だぞ」
ルカがサンドイッチを
食べながら、
アッシュ先生に宣言した。
「それは
バルトさんが
言っただけだから」
はい、すぐさま訂正します。
「私の観察結果からは、
ルカくんも私も
同じレベルですよ。
まだ分かりません」
アッシュ先生は、
優雅に白ワインを一口飲んだ。
「リサ、
このリサが作ったサンドイッチ、美味しい」
「よかった」
「毎日食べたい」
「毎日は
メニューに入れないよ」
「リサが作るものなら
何でもいい。
俺だけに
毎日作ってくれるなら」
「ん? お客様?
俺だけにとは?」
「結婚の申し込みに
聞こえなかった?」
はい。
ちょっと、
そうじゃないかなぁとも
思いました。
聞こえましたよ。
私は天然鈍感ではございません。
人も少ないから、
ええ、
この話は皆によく聞こえていますよ。
ルカは顔がいい。
ジンジャーカラーの髪に、
赤茶色の瞳。
整った顔立ちは目立つ。
ギルドにもファンはいるから、
数人の女の子たちが
一斉にルカを見た。
「今日はルカくん、
本気ですね」
アッシュ先生が、
涼しい顔でルカを見て言った。
私は、
そんなアッシュ先生の前に
普通の酢の物を置く。
「ルカ、私は仕事中なの。
私ではなく、
先生とお話してください」
「リサ、
俺もう休憩終わるから行くけど」
「お疲れ様、頑張って」
「ごめん。
今日は想いがあふれた」
「びっくりしっぱなしだよ、
ほんと」
「リサさん、優しいなぁ。
やっぱりいいな」
アッシュ先生が、
にこやかに追い打ちを
かけてくる。
「今日は二人とも甘すぎます」
そう言って、私は厨房へ逃げた。
☆☆☆
仕事終わりの賄いタイム。
一日の中で、
何よりも至福な時間だ。
今日も頑張りました、私。
「モレさん、
今日のまかないのエールは
おかわりを所望します」
「しょうがねえ。
甘い客たちの対応、
頑張ってたからな」
「そう思うなら、
酢の物もお願いします」
「へいへい、そこに余ってますよ」
モレさんは皿に入った
酢の物を私に近づけ、
エールを注いでくれた。
「で、どうなんだ。
結婚するのか」
「かぶふっっっ」
エールが
気管に入りそうになった。
「付き合ってもないですし、
色々すっ飛ばしてます」
「じゃあ、先生のほうか」
「相手が誰なのかの話はしていません」
「誰にもなびきません」
「なんか今、顔赤いぞ」
「エールのせいです」
「誰か頭に浮かんだのか?
どっち?」
「エールです」
「ああ、そういえば、もう一人いるな」
「モレさん、私の肝臓に悪い」
「心臓じゃねえのか」
「恥ずかしくなるたび
エールが進みます」
「男もエールには勝てないな」
「モテ期というやつか?
まあ、楽しめ人生」
「酢の物、美味しい……」
私はしみじみと呟いた。
恋にはなびきません。
なびきませんとも。
でも、なびかないでいるのも、今日はなかなか骨が折れた。
甘い言葉より
小皿の注文が大事です。
もう一人キャラを設定していましたが、
参加ならずです。次回があれば挑戦したいです。
あらすじに少し載せてます。
続きがみたい、面白かった、リアクションなどいただけると感激します。
どうぞ宜しくお願いいたします。
他の作品も宜しくお願いします。
少しずつアップ予定です。




