聖女様の階段落ち
レーベンブルグ学園は国の名を冠した歴史と伝統のある由緒正しい名門校。貴族の子女達、中でも裕福な家だけが通学を許され、学園卒であることは貴族達のステータスとなっている。
王宮ではないかと思える立派な門。そこから校舎までの距離こそ300メートルほどと高位貴族の屋敷より劣るものの、両脇の見事な庭園は国内の庭園三景のひとつとして国内外にも有名だ。
正面にある本校舎に入れば、まずはダンスホールかと見間違えるほどの広いエントランスホールが待ち構える。
今は下校時間、迎えの馬車を待つ生徒達がエントランスホールに多数いる。地方から来る生徒のための学園寮もあるが、ここは基本、財のある家の子女でなければ入れない学園なので、王都内に邸宅を持っている家がほとんどだ。つまりこの時間は大半の生徒がここエントランスホールに集う。
エントランスホールの中央に、10人程なら横並びで通れる幅の格調高く豪華な階段がある。ちなみにこの階段も国内の階段十選に選ばれている。その階段の上階側の廊下から一人の令嬢が姿を現した。
公爵令嬢たるレイアリーヌである。
レイアリーヌは眉目秀麗で、優雅な身のこなし、金髪に縦ロール、そしてキツめの目付き。いかにもな悪役令嬢オーラを放っている。もちろんお約束的に王太子の婚約者であり、将来の国母である。
冷静沈着で表情を変えず、一切の情を考慮せず合理性で判断する性格から“氷の令嬢”と呼ばれている。
普段の彼女なら取り巻きの令嬢を従えての下校なのだが、この日に限り一人で姿を現した。
その氷の令嬢たるレイアリーヌが階段手前で立ち止まり、扇子で口許を隠しながら目をスッと細めた。視線の先には階段を走って上ろうとする一人の女生徒。
その生徒は学園における唯一の例外。聖女の資質ありと認められ国に保護された、学園内唯一の平民出身の少女セイラだった。
セイラは国に保護されると、レイアリーヌの家とは同じ王太子派閥でありながらライバル関係にある侯爵家の養女になった。学園内では同学年である王太子グレンリーの庇護下にあり、一緒にいることが多い。レイアリーヌもグレンリーと同学年、同クラスであるが、淑女である彼女がグレンリーに無闇に近づくことはない。
最初の頃、レイアリーヌは静観した。聖女候補かつ侯爵令嬢とはいえ、平民上がりのなんちゃって令嬢など、自らの地位を脅かすこともない羽虫だと。
しかし、気さくで明るいセイラの面倒をみるうちに徐々にグレンリーは絆されていき、学園内で一緒にお茶を飲む光景が増えていった。セイラが小柄で、美人というより可愛い顔立ちの庇護欲をそそる少女だったのも大きい。
最終学年になった頃は、グレンリーとレイアリーヌの接点はほとんどなくなり、定期的に行われていた婚約者同士の茶会にもグレンリーは欠席するようになっていた。
この頃からセイラへの執拗ないじめが開始された。レイアリーヌ自体は指示も手出しもしないが、セイラが視界に入ると目を細める彼女を見た取り巻き達が、セイラ排除に動き出したのだった。こうしたいじめにセイラがめげることはなく、逆にグレンリーのレイアリーヌへの心証はますます悪くなっていく。
そしてまもなく卒業という頃、最大の事件が起きた。
上階側の階段前で立ち止まるレイアリーヌ。上位の家格の者が階段を使用する際、下位の者は階段から離れるのがマナーである。これは階段という転落すれば大怪我を負いかねない場所での悪意ある事故を防止するためだ。レイアリーヌが立ち止まっているのもエスコートを待っているだけである。本来であればこの役は婚約者であるグレンリーが務めるべきだが、それをやらなくなって久しい。今では公爵家の迎えの執事が務めていた。
この場合、セイラがレイアリーヌに悪意があって近づいていると捉えられても致し方がない場面である。
「あ、ごめんなさ」「無礼者!」
レイアリーヌの鋭い叱責がセイラの謝罪をかき消してエントランスホールに響く。声の主に場の注目が集まる。
なんと急ぎのあまりか、しっかりと前を見ずに階段を駆け上がったセイラは、レイアリーヌの肩にかすったのである。
もうこれは無礼を通り越して狼藉と言っていい。流石にレイアリーヌも看過できなかった。とはいえ、いつもは冷静沈着である彼女だったが、この瞬間つい手が出てしまった。叱責だけで済ますつもりだった。だがこの一瞬、今まで積み重なった怒りが理性を越え、扇子で立ち止まったセイラを打ち据えてしまった。
運が悪かった。皆の意識が階段上に向かった時、目の当たりにしたのは、セイラを打ち据えるレイアリーヌと、バランスを崩すセイラだった。
階段際での出来事だったため、セイラは崩れたバランスを立て直そうと片足を後方にずらそうとして、二階の床から足を踏み外した。打ち据えられたため、自然と体は横に倒れるようにバランスを崩したためである。セイラは横倒れになって階段を転がり落ちた。
階段の下で倒れたままのセイラ。場は音もなく静まり返る。
「セイラ!」
異常事態に気づいたのか、なぜかエントランスホールの脇から出てきたグレンリーがセイラの元に駆け寄る。セイラに触れずに状態を目視すると、的確に指示を出した。
「医師をすぐ呼べ! 頭を打った可能性が高い。僕たちが無闇に動かしてはいけない」
グレンリーは階段の上に視線を向ける。そこには扇子で口許を隠し、冷ややかにこちらを見下ろすレイアリーヌ。
「レイアリーヌ!貴様!!」
グレンリーは憎悪の視線を婚約者に向けた。
その時、倒れていたセイラの体が光った。
その光は強くはないので眩しくはないが、包み込むような暖かさがあった。まさに聖なる光、セイラの聖女としての力が覚醒した瞬間だった。
場面は変わり、卒業パーティーの最中。
パーティーも中盤に入り、卒業生達は飲食や学友達との最後の会話に興じている。明日からはそれぞれの立場での生活が待っている。身分や立場に沿った言動が求められ、気軽に会話できない間柄になる。だから今日はただ友達でいられる最後の日でもあった。
そんな中、レイアリーヌもただ一人会場にいた。エスコート役もなく、取り巻きもいなかった。近づく者もいない。
「レイアリーヌ!前に出よ」
間もなくダンスが始まるという頃、王太子グレンリーの声が会場に響き渡る。
人がスッと割れ、グレンリーとレイアリーヌの間を隔てるものがなくなる。レイアリーヌは毅然とした態度で進み出ると優雅に礼をした。
「レイアリーヌ。御前に」
グレンリーの横には正式に聖女に認定されたセイラが心配そうに立っている。
「余裕だな、レイアリーヌ。貴様は聖女たるセイラに数々の嫌がらせを行い、果てには階段から突き落とした。貴様のような者が国母になれば国が乱れることは明白。よって貴様との婚約は公爵家の有責で破棄とする」
「嫌がらせなどと、全く身に覚えがありません。それに階段の一件は、セイラ様がわたくしに狼藉を働いたために起きた事故ですわ」
「事故だと。だとしても加害者である貴様はすぐに動かなかった。そこに聖女への悪意がなかったとは言わせん」
「あの時点での彼女は聖女候補であっても聖女に認定されておりませんわ。わたくしからしてみれば、格下の侯爵家の令嬢が三年もあったというのにマナーも学ばず、わたくしに害を加えようとしたとしか見えません。なぜそのような者を介抱する必要が? 警固に突き出さなかったのですから感謝してほしいですわ」
「そんな、私は故意では」
「セイラ様にはお話しておりません。まずは礼儀を習ってからおいであそばせ。三年で身につかなかったのですもの。一生会えることはなさそうね」
「レイアリーヌ様、ひどいわ!」
「貴様またしてもセイラに無礼を! セイラが結果として聖女だったのは事実、先だろうと後だろうと貴様の罪は変わらん」
「正気ですの? あまりに横暴ですわ」
「衛兵、聖女を害そうとした罪人を捕らえよ」
レイアリーヌはそれ以上何かを言うことなく、おとなしく駆け付けた衛兵に連れられ退場した。
「レイアリーヌ様はこのあとどうなってしまうのかしら」
「セイラは心優しいな。死罪と言いたいところだが、法に照らせば公爵家への罰金と、貴族籍剥奪の上で修道院送りが妥当だろう」
「……そうですか」
「セイラ。君が気に病むことではない。それより僕と踊ってくれないか」
「はい。グレンリー様」
セイラの手を取り、グレンリーがホール中央に進むと、何事もなかったかのように優雅な曲が流れ出す。
踊り出す二人。見つめ合い、華麗に舞う二人は実に見事で絵になる。二人があまりに見事で、他に踊るペアはない。
曲が終わり、二人の動きが止まる。次の瞬間、大きな拍手が起こった。
「セイラ。これからも僕の隣にいてくれ」
「はい。グレンリー様」
「これからはグレンと呼んでほしい」
「……はい、グレン」
いつまでも拍手は鳴り止まなかった。
☆☆☆☆☆
遡ること半年前。
歴史と伝統あるレーベンブルグ学園であるが、最新技術の導入も新しい文化も積極的に取り入れている。
生徒会に一人の男子生徒が駆け込んだ。
「王子!」
「おいおいニール、ここでは会長だろう」
「ま、ニール様。駆け込んでくるなんて無作法ですわ」
「ま、いいじゃん。今どきそんな昔ながらの貴族令息、令嬢なんていないよ」
「それもそうね。私だって歴史ある伯爵家の令嬢だけど、小説に出てくるような礼儀作法なんてとても無理」
「略式礼法だけで困らないよね」
「まったく君達は……。僕とティーはその古典礼法が求められているというのに」
「そりゃ王太子の会長と、その婚約者で公爵令嬢のセインティーラ様はねえ。卒業後に婚礼だもの」
「それだけじゃないわよスレイ。セイラは光の術を使える聖女様でもあるんだから、王家の婚礼だけでなく、神殿の儀式だってあるんだからね」
「リア、貴女……婚礼の儀ではわたくしの付き人になってくれる約束、忘れていないかしら」
「そ、そうだったわ!」
「あはは、リア嬢、ちゃんと挨拶できるの?」
「失礼ねスレイ!できる……に決まって……いるでしょう?」
「おいおい。そこは自信持って言わないと」
リアと呼ばれた令嬢は七面相をしたあと、徐に立ち上がって一番上座に移動すると、スカートの両側を軽く持ち、腰を少し落として礼をする。
「リルクート家のレイリアーシャと申します。皆様お見知りおき下さいませ」
「おお!やればできるじゃん。膝折礼なんて久々に見た」
「足つりそう」
「まあ、リアはこれからは毎週、我が家にいらして。特訓しましょう」
「え、ええ!?」
と和気あいあいなところ、バンと机を叩く音に皆驚く。音の主は駆け込んできたニールである。
「だから、大変なんだって。学園長の許可が下りたんだよ!」
「ほ、本当かい!?」
「ええ、本当だって、会長」
「許可って、ルドが卒業パーティーで考えている余興のことかしら」
「そうそう、今流行りの動画物語ってやつだよ」
「やった、私まだ見たことないんだよね。何を上映するの? 今の流行りといえば聖女が終末世界でゾンビをバッタバッタと浄化しまくる“聖女無双物語”? それとも可憐な公爵令嬢が護衛騎士と許されぬ愛の逃避行をする“令嬢駆け落ち逃避行”かしら」
王太子であるグレイルードは、聖女であり公爵令嬢である愛しの婚約者セインティーラが嗤いながらゾンビに無双する姿や、護衛騎士に抱き締められている姿を想像し、ブンブンと頭を振る。どちらもない。特に後者は絶対にダメだ。
「リア嬢、人気の作品を上映するのではなく、我々で作るのさ。この生徒会でね」
こうして、生徒会による動画物語作成プロジェクトが発動したのだった。
☆☆☆☆☆
半年、一つの作品を作るとなると長いようで短い。そこからはプロジェクトメンバーそれぞれが過密スケジュールだった。
プロジェクトは、グレイルードやセインティーラが卒業後の婚礼式に向けての打ち合わせ等あれこれあり、基本は公爵令息ニール主導で行われた。
まずは何と言ってもストーリーがなければ話にならない。せっかくだからオリジナルストーリーにしようとのグレイルードの一声で、ストーリーは既成の物語ではなくメンバーで作成することになった。
男子が望むような冒険活劇は撮影場所の確保や予算がオーバーするのが予め予想される。
プロジェクトを秘密裏に進めるとなると、ストーリーは学園内で撮影できるものに限定されるだろう。
卒業パーティーという場でホラーなどそぐわないにも程がある。
それらを踏まえ、レイリアーシャの強い希望もあって恋愛もので方向性は決まった。当然ながらレイリアーシャがストーリーを書くことになった。
レイリアーシャが三徹して書き上げた渾身のストーリーを読んだ皆は……首を傾げた。これって……。
「リアこれでは流石に公爵令嬢がかわいそうよ」
「リア嬢君は王族をなんだとおもってるんだい?」
「あくまで物語なんですから。それにインパクトがあった方が強いし、幸せって何かの犠牲の上にあるんだというメッセージを込めたんだけど」
「伝わらないでしょ」
「うーん、でも断罪がないと物語が破綻するし」
眉をハの字にするレイリアーシャを見たニールはメガネをクイとあげた。
「日程の余裕もないし、これでいこう! 大事なのは形にすることだよ」
ニールが鼻息荒く主張し、手直しすることなくこのストーリーが採用された。ニールの主張は正しい。ストーリーを手直しするとその後の日程が厳しくなると全員が認識していたし、本格的に作るといってもあくまで学生の余興だからいう意識もある。形にすることが最重要だった。
自他共に認める魔導具オタクのニールは、「僕の予算では高価すぎて購入できない最新の映像音声記録の魔導具を早く使いたかったんだ」と、後にスレイに語ったが、スレイは知っていた。この生徒会室でニールの視線がいつもどこにあるのかを。
ともあれストーリーが決定すれば次は配役である。
「主役は、会長とセインティーラ様以外ないっしょ。特にセインティーラ様は、小柄で可憐だから聖女役にぴったりだ」
「そのつもりで書いたからね。大柄でつり目の私は悪役令嬢ね。取り巻きはセイラの侍女達を起用しようと思って、もう頼んであるのよ」
「そ、その、リア嬢だって素敵な女性だと思うよ」
突然、顔を真っ赤にして呟くようなニールの言葉に、レイリアーシャも顔を真っ赤にした。
「リア充どもめ、禿げろ」と呟くスレイの言葉など、二人には聞こえなかった。
☆☆☆☆☆
撮影が始まった。
撮影は休校日に行われ、エキストラはここ数年の卒業生を中心に集められた。さらに王太子が箝口令を出すなど、サプライズ放映にするため在校生に知られないように撮影は徹底的に秘密裏に進められた。
撮影に使用された魔導具は実に十台。内九台は計画を面白がった国王が貸してくれたものだった。撮影にあたり、様々なアングルから記録し、それを編集して見る者を引き込む映像にまとめていく。
撮影を行うのは王家の影と呼ばれる諜報のプロ達だ。彼らは映像に映らないステルスの魔導具衣装で全身を覆っている。映るのは魔導具だけになるので、映像加工は楽になる。
ちなみに加工された映像は法的根拠にならないが、これはあくまで娯楽映像であるので問題ない。
ただ、記録映像と物語の撮影は違う。そこはプロの撮影士を呼んで技術指導を受けた。
後日、影達の報告映像の臨場感が上がったらしい。
スレイはスケジュール管理や小道具の手配、各所への連絡を行い、目まぐるしく駆け回った。
監督役のニールは複数の映像の編集も一人で行った。技術職気質のニールの面目躍如であった。
こうして目まぐるしく時は過ぎ、いよいよ卒業パーティーまで一週間。残すシーンは最大の見せ場、聖女の階段落ちシーンだ。
「ティー、本当に大丈夫かい?スタント役の影に任せようか」
「ふふふ、ルドは心配性過ぎますわ。この日のために猛特訓したんですもの。きっちり演じてみせますわ」
この二人、勇猛果敢なのはセインティーラの方だった。グレイルードの方はどちらかといえば痛いのも怖いのも苦手だった。
ストーリーを書いたレイリアーシャも、実際に撮影の段になると事故が起きないか心配した。ここはスタントを起用するつもりで書いたのだ。そう何度も説明してもセインティーラは折れなかった。こうして撮影の日を迎えていた。
「じゃあ、始めよう。危険だし何度も撮りたいシーンじゃない。一発で決めよう」
ニールの合図で最後の撮影が始まった。
☆☆☆☆☆
卒業パーティーに設置された大スクリーン上で、階段を転げ落ちる聖女候補セイラ。そのシーンは複数のアングルから何回か繰り返された。
迫力あるシーンに、会場のあちらこちらで令嬢達の小さな悲鳴が上がった。
ピクリとも動かないスクリーン上のセイラ。心配になった観客の令嬢の一人は、近くで鑑賞している王太子グレイルードと婚約者セインティーラをちらりと見る。
グレイルードは両手で口許を押さえ、スクリーンを見入っている。
対して、セインティーラは満面の笑みだった。とても元気そうである。怪我ひとつしていそうもなかった。
それもそのはず、聖女でもあるセインティーラには神の加護があり、あらゆる外的な肉体的ダメージは受けないのだ。だからセインティーラにとって重要だったのは怪我より、階段落ちの迫力ある演技の方だった。なんだったら重力より早く自ら転がりにいったくらいだった。
場面は進み、断罪のシーン。
皆が首を傾げた。え、これって公爵令嬢が悪いの?と。階段落ちシーンに限って言えば無礼だったのは間違いなくセイラだ。後で聖女に覚醒したからといって、その件で公爵令嬢を罪に問うのはどうなの? 聖女を伴侶にしたい王太子の横暴では?そもそも王太子の浮気がそもそもの原因では? など、なんだこりゃな展開だった。
しかし最後のダンスシーンで二人のダンスがあまりに見事で、10台の魔導具をフルに活用したアングル切り替えも実に素晴らしかった。王太子と聖女のダンス中のアップや会話などどうやって記録したのかと後々まで語られる名シーンになった。
「いやあ、あのシーンの記録は実に楽しかった。宙吊りにされたけどな」
「前もってダンスの動きをみて、皆でその動きに合わせて相対位置が変わらないようにとか、普段絶対やらない技術が求められたな」
「この職辞めたら撮影士なんかも面白いかもしれん」
などと、撮影に参加した王家の影達が参加できなかった同僚達に言ったとか言わなかったとか。
とにかく最後のダンスシーンが華麗すぎて、先程の理不尽はどうでもよくなっていた。礼法もおぼつかない筈の聖女がダンスだけ見事なのは不自然だとかの声も上がらない。
物語が終わった後、大きな拍手が鳴り止まなかった。
そしてヒーロー、ヒロインを演じた、本物の王太子と婚約者によるダンスの披露へと繋がり会場は多いに盛り上がった。
この動画物語のタイトルは後に“聖女様の階段落ち”と名付けられ、一般にも広く公開された。
高位貴族子女の学園生活やレーベンブルグ学園内の実際の映像、それらがリアルに再現されている上、先日婚姻したばかりの王太子と王太子妃の主演で王家公認ということもあり大ヒットした。売り上げは王家と学園に入り、撮影した生徒会メンバーには渡らなかったけれども。
さて王太子達が卒業した後、生徒会会長を引き継いだのは今年最終学年のニールだった。スレイも卒業し、撮影に携わったメンバーは、このたび正式にニールと婚約した同じく最終学年のレイリアーシャのみとなっていた。生徒会による動画物語の作成は、この二人の活躍により新たな伝統になっていくのだった。
なお“聖女様の階段落ち”が一般公開されて以降、レイリアーシャは後輩達から“氷の悪役令嬢レイア様”として大変慕われ、同時に畏れられたとか。
もっともラブラブの二人により糖分過多となった生徒会室に出入りする新生徒会メンバーからは、裏で“氷飴の激甘令嬢レイア様”と呼ばれるようになった。
ここでの氷飴とはアイスキャンディのことではなく、飴細工菓子を指す。氷の如く透明で美しく、溶けてなくなるまで大変に甘い。
なお百年後、当時の文化記録として歴史的資料ともなったこの作品が、当時の倫理観について学者達の論争を巻き起こすことなど、プロジェクトメンバー達には予想も出来ないことだった。




