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棄てられた黄昏の王 ―改正ダンジョン法で処刑された男は、中性子を統べる神の指先で現代文明を再定義する―  作者: 空識


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第1話:崩壊と昇華 ―中性子の理、深淵300階層での再誕―

2025年、現代日本。

かつて「黄金の国」と呼ばれた島国は、積み上がった一千兆円を超える国債と、止まらぬ少子高齢化の荒波に飲み込まれていた。国家がその崩壊を食い止めるために選んだのは、人道的倫理をかなぐり捨てた極端な効率化――「改正ダンジョン法」という名の、合法的で無慈悲な人口削減であった。


各主要都市の役所、その地下深くには、かつて「防災拠点」と呼ばれた空間を改造した、窓一つない「執行室」が設置されている。

そこは、ダンジョンという超自然的な存在が持つ「因果の歪み」を、国民の命という生贄によって強引に繋ぎ止めた、現代の供犠場であった。


役所の薄汚れた会議室で、一人の男――佐藤は、機械的に読み上げられる執行書を受け取った。

「貴殿のこれまでの社会貢献に感謝します。しかし、現在の国家財政において、貴殿を維持するコストは許容範囲を超えました」


この宣告は、単なる通告ではない。執行室の床に描かれた転送陣は、人類がダンジョンの神――あるいはそのシステムの中枢を司る「上位存在」との間で交わした、血塗られた契約の具現化であった。

世界中の先進国は、増えすぎた高齢者、社会不適合者、社会的弱者たちの「命」と「資産」をダンジョンという深淵に捧げる代わりに、国家経済の延命という甘い蜜を啜っている。


「佐藤さん、最後のお願いです。日本の未来のために……死んでください」


職員の目は、死を司る無機質な部品のようであった。

佐藤の足元で、幾何学的な陣が脈動を開始する。この転送は、人類が深層を踏破した結果ではなく、ただ「特定の座標に廃棄物を投棄する」という、一方通行の物理現象に過ぎない。

佐藤の視界は、どす黒い光の奔流に飲み込まれた。

胃の腑を掴まれるような嫌悪感。肉体が分子レベルで圧縮され、空間の狭間へと押し込められる苦痛。

次の瞬間、彼の体は地上から完全に消失した。


転送先は、世界最大規模のダンジョン。人類がその深淵の端にすら触れたことのない絶望の最深部、地下三百階層。

そこは、人類が観測することも、到達することも不可能な「虚無」の底だ。

座標転送の凄まじい歪みと、岩盤への激突。老いた肉体は、物理法則の前に容易く粉砕された。

後頭部は砕け、脳漿が灰色の岩を汚す。

本来、佐藤の命はそこで「廃棄」され、物語は終わるはずだった。彼の遺産は国庫に納められ、国債の償還という数字に変わって。


だが、この三百階層には、地上の科学が観測し得ない「中性子レベルの極微魔素」が、深海のような圧力で満ちていた。


死の淵で、佐藤の肉体は変質を開始した。

それは「治癒」という緩やかなものではない。

彼の肉体を構成していた全原子、その中心にある原子核。そこへ高エネルギーの中性子レベルの魔素が、奔流となって突き刺さった。


「……ッ、……ああぁ……ッ!!」


声帯が潰れているため、叫びは肺の中だけで鳴り響く。

魔素は、佐藤の細胞を構成するタンパク質の結合を断ち切り、DNAの塩基配列を一度解体した。

そして、その中性子レベルの粒子は、彼を「この世界の魔素に最も適応した存在」へと強制的に書き換えていく。


かつての六十歳の老いた組織は、中性子レベルでの魔素分解を受け、不要なゴミとして排除された。

代わりに、魔素が接着剤となり、新たな中性子の配列を組み上げる。

骨は、炭素とケイ素の配合が分子レベルで最適化され、ダイヤモンドをも凌ぐ強度と弾性を持つ「魔骨」へと。

筋肉は、中性子崩壊をエネルギーへと直接変換する、高効率な収縮繊維へと。

神経系は、電子の速度を超え、量子通信に近い反応速度を持つ魔力線へと。


それは、人類がこれまでの進化で一度も経験したことのない、素粒子レベルの「進化」であった。


数時間が経過した。

立ち上がった男は、もはや佐藤ではなかった。

身長は一八三センチメートルまで伸び、肌は一切の不純物を排除した透き通るような白へ。

髪は、中性子の光を反射する、神々しい銀色。

そして、開かれた瞳は、鮮血のような赤の中に、黄金の瞳孔が十字を刻んでいる。


「……あ」


言葉を発した。

その声は、空気中の分子を共鳴させ、空間そのものを震わせる重厚な響きを持っていた。

彼が手をかざすと、視界にステータスボードが展開される。


---


### 【PERSONAL STATUS BOARD - VER. GLOBAL】


**【個体識別】**


* **名前:** 未設定(旧:日本国民・佐藤)

* **種族:** 超適応魔素変容体

* **称号:** 深淵の開拓者 / 全てを識る者


**【基本能力値(Base Parameters)】**


* **HP(肉体強度):** 9,999,999,999 / 9,999,999,999(中性子レベルの自己修復機能)

* **MP(魔素貯蔵):** ∞(環境中性子との完全同調により消費概念なし)

* **SPスキルポイント:** 測定不能(全事象の理解により自動蓄積)

* **STR:** 15,400(原子の結合力を破壊する一撃)

* **VIT:** 18,200(中性子線の放射すら無効化する防御)

* **AGI:** 12,800(意識した瞬間に空間を跳躍する機動力)

* **DEX:** 25,000(中性子の配列を指先で操る精密性)

* **INT:** 32,000(全宇宙の事象を並列解析する演算能力)

* **MND:** 50,000(精神汚染、概念干渉を一切寄せ付けぬ強度)

* **LUK:** 1,000(事象の特異点としての幸運)


**【固有・万能能力(Unique Skills)】**


* **魔素分解(中性子レベル):** あらゆる物質、魔法、生物を構成する中性子の結合を解体し、無に還す。抵抗は一切不可能。

* **魔素構築(物質・生物):** 魔素(中性子)を用いて、新しい物質、生命、または既存の構造を、原子レベルから完璧に構築する。

* **鑑定・解析(万能):** 対象の全ステータス、過去の行動履歴、所属組織、指示系統、さらには作成者の意図までを完全に把握する。


**【常時発動型スキル(Passive)】**


1. **全世界言語理解:** 電子信号を含む、全知的生命体の情報の直接理解。

2. **生活魔法(生存・最適):** 常に周囲の環境(温度、湿度、酸素、清浄度)を自律的に維持。

3. **時空間収納:** 生物・非生物、あらゆる存在を別時空間へ劣化なく隔離・保存。

4. **丈夫な心身:** 魂・意識への干渉を完全無効化。レベル上昇に伴い痛覚・疲労が完全消失。

5. **魔物解体適性:** 全魔物の構造、中性子密度の偏りを即座に識別し、処理する。


---


男は、自らの手を見つめた。

そこに意識を集中すると、周囲の空気――窒素や酸素の分子が、彼の意志一つで「中性子レベル」で分解され、再構成されるのが分かった。

彼は指先で宙をなぞった。

一瞬で、空気中の成分から純度一〇〇パーセントの金が構築され、コインとなって足元の岩盤に落ち、澄んだ音を立てた。


「復讐か。……ふん」


彼は鼻で笑った。

自分を棄てた国家。改正ダンジョン法を推進した政治家たち。

彼らが必死に守ろうとしている「国債」や「予算」など、彼が中性子をいじれば、数分で数兆円規模の貴金属やエネルギー源として生成できてしまう。


(今の私にとって、日本という国家は……あまりにも矮小だ)


しかし、彼は決めた。

自分を殺意や悪意で汚染しようとする組織、執行者。

彼らに対しては、慈悲など持ち合わせていない。

その存在自体を、中性子レベルで分解し、この宇宙の構成要素から抹消する。


「まずは、この場所を整えよう。三百階層の主も、私の安寧を邪魔するなら、素材になってもらう」


男は、銀色の髪を揺らしながら歩き出した。

「消音・消臭歩行」により、彼の移動は死神のように静かで、しかし、その一歩一歩がダンジョン全体の生態系を塗り替える予兆となっていた。


彼の手には、先ほど構築したばかりの、中性子密度を極限まで高めた黒い短杖が握られていた。

それは、いかなる物理装甲も魔法障壁も「通過」し、対象を素粒子レベルで解体する、この世で唯一の魔道具であった。


新しい人生。

六十歳という「終わり」から始まった、中性子の再編。

男は、自分を棄てた地上を、金色の瞳孔で見据えた。

どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。

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