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六話 神が創りしモノ

「学園に入る前に……まず服を買うしかないな」


 グレンがそう言って市場通りへ足を向けると、ルリは胸を張って頷いた。


「うむ! わしも凛々しく整えていくぞ!」


 だが、服屋の前に立った瞬間――


 ふたりは固まった。


 ショーウィンドウに並ぶ白や黒のローブや学生服。


 値札の数字は、きっちりと現実を突きつけてきた。


 ―十金貨―


「……」


「……」


 ふたりは同時に視線をそらした。


「なぁ、ルリ……俺たち、いま持ち金いくらだ?」


「昨日のシャドウハウルの金貨のあまり……一枚、じゃな……」


 沈黙。


「……買えないな」


「まったく買えぬのう……!」


 ルリは袋の金貨を振ってみるが、乾いた音が虚しく響くだけだった。


 ルリはぽん、と手を叩いた。


「よい案があるぞ、グレン!」


「……嫌な予感しかしないが、一応聞こう」


「これじゃ!」


 ルリはローブのポケットを探り、掌に乗る白い卵型のアーティファクト と、ヒビの入った懐中時計のようなアーティファクトの計二つを取り出した。


 どちらも明らかに異質なマナを放ち、確実に常識外れの代物だ。


「これを売るのじゃ!」


「――――は?」


 グレンは一瞬、心臓が止まりかけた。


「ルリ、それ……神の世界の宝なんだろ? そんなもの、町で売ったら――」


「高く売れるじゃろう?」


「そこじゃねぇ!!」


 全力でツッコむグレン。


「そんなもん売ったら、王国に目をつけられる! 神界にもバレるぞ!何より……お前の持ち物なんだから、大事に――」


「でも、服を買う金がないのじゃ……」


 しゅん、と肩を落とすルリ。


 その姿は、神々しいはずなのに妙にしょんぼりとした子犬めいている。


 グレンは額に手を当てながら、深いため息をついた。


「ルリなりに考えてくれてるのは嬉しいけど……やっぱり、服は別の方法でなんとかする。アーティファクトを売るのは絶対なしだ」


「むぅ……そうか……そうじゃな」


 ルリは名残惜しそうに卵を撫でた。


「でも、そういう商人がこの町におるかもしれぬぞ?怪しき宝を高値で買い取る店とか……」


「余計危険だわ!!」


 グレンは町中にもかかわらず、ビシッとツッコミを入れる。


 数人の人々がちらりとこちらを見た気がするが、注目されることが当たり前だったグレンにとっては、この程度は朝飯前だ。


「なぁグレン」


 ルリが名残惜しそうに卵を抱いたまま尋ねた。


「ぶっちゃけ……どれくらいの値で売れると思う?」


「だから売らねぇって言ってんだろ!!」


 市場の喧騒の中、グレンの怒声が今一度見事に響き渡った……



 城下町の喧騒から離れた路地裏。


 昼でも影が濃く残る細い通りの奥に、古い木の看板が吊り下がっていた。


 ―灰羽の帳―


 どこか不吉な気配が漂う、古物鑑定店だ。


「……ほんとにここ入るのか?絶対ヤバいって」


「ふふ、わしの勘は侮れんぞ。こういう場所こそ宝の山じゃ」


 どうしても値段だけが知りたいというルリはグレンを半ば引きずりながらここまでやってきた。


 彼女は手に持ったリンゴをかじりながら妙に上機嫌だ。


 グレンは顔をしかめつつ、渋々扉を押した。


 からん、と鈴の音が響く。


 ひんやりとした空気が流れ込み、棚には古い魔具や壺が所狭しと積まれていた。


 奥のカウンターには、一人の老婆。


 切れ長の目は濁っているはずなのに、獣のように鋭い光を宿していた。


「……何の用だい」


 ルリがリンゴをくわえたまま、ポケットをごそごそとまさぐる。


 そして――二つの物をカウンターへ置いた。


 ひとつは、ひび割れた懐中時計。


 針は止まり、内部からマナの砂のようなものが微かに漏れている。


 もうひとつは、真っ白な卵のような、石のような硬いモノ。 


 マナに反応しているのか、ときたま脈動しているようにも見える。


 老婆の表情が、見る間に蒼白へ変わった。


「……なっ……なんだいこの異様なマナはっっ……!」


 彼女の手が懐中時計へ触れた瞬間――

 彼女はそれを1秒とも持たずに手放した。


 長年のカンがそうさせたのか、彼女が見た景色に何かが起きたのかはわからないが、彼女はお手上げだ、とでも言いたげに手を上げている。


「こ……これは……何十年ぶりだ……

 こんな《《格》》のものを目にするのは……!」


 老婆は声を震わせ、次に卵へ手を伸ばす。


 触れようとした瞬間、触るなどでもいうかのように、表面は淡く発光する


「ひっ……!? なんだい、これは……!」


 卵の内部で小さなマナの流動が、ぼうっと揺らめいたように見えた。


「こんな……生きておるような神具……

 存在していいはずがない……!」


 ルリはきょとんとしたままリンゴをかじり続ける。


「むぅ、そんなに凄いものなのじゃ?」


「価値……?そんな言葉で片づけられる代物じゃない!!」


 老婆は身を乗り出し、声を抑えながら続けた。


「これは……この世の工房で作れる質じゃない。マナも形状も……《《人間が理解できる領域》》じゃないんだよ。名前も知らんが……おそらく、神が創りし遺物そのものに違いない!」


 グレンとルリが一瞬だけ目を合わせる。


 老婆は息を荒げながら、さらに囁いた。


「こんなもの……王に献上されれば、生涯の保障を得られるだろうが……同時に、消されるかもしれん。流通していい代物じゃない。どうやって手に入れたかなんて……絶対に誰にも言うんじゃないよ」


 ルリはリンゴの芯をぽいとポケットに押し込みながら小声で言う。


「……わしも、よう覚えておらんのじゃ。

 気付いたら持っておっただけでのう……」


 老婆はその答えにさらに顔を強張らせる。


「……いずれにせよ、これは扱っちゃいけない。値段?付けられるわけがないだろう。町どころか王都が動く。王都予算レベルだよ。持ってるだけで命取りだ……!」


 グレンはすぐに二つの遺物を掻き集め、ルリの懐へ押し込んだ。


「ルリ、今後は絶対に誰にも見せるな」


「う、うむ……わしも、さすがに反省したのじゃ……」


 ありがとうございますとだけ言い駆け足で店を出る。


 半ば逃げるように出た路地の空気がやけに冷たい。


「……あれ、本気で危なかったな」


「まさか国が動くレベルのものであろうとは、効果がわからんとはいえさすがのわしも驚いたのじゃ……」


 そう呟きながら、二人は灰羽の帳を後にした……

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