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サイド ????

 白い石で組まれた回廊が、静かに続いている。

 天井は高く、数多の柱が連なり、彫刻は過剰なまでに精緻だった。


 それは神殿のように見える建物であった。


 円柱状の柱のすき間から、光が煌々と入り込んでいる。しかし、その光は決して柔らかいとは言えない。


 冷えた朝日のような、冷たい空気とマナを含んだ光が、石床と柱の稜線を際立たせている。


 中央には、大理石で出来た円卓。そして、その周囲に四つの席が設けられていた。


 すでにその全ては埋まっている。最初に口を開いたのは、もっとも穏やかな声だった。


「……動いたね」


 声の主は、卓に指を置いたまま、淡々と続ける。


「学園、実地訓練、始星寮……かなり安全択を進んでいるようだね」


 その視線は、宙に浮かぶ淡い光像に向けられている。


「本来なら、あの位置にはいない存在だ」


 低く、乾いた声が割り込む。


「似ている。だが違う。名前も、因果も、座標も」


 黒いローブの人物だった。布地は上質で、装飾は控えめだ。


 だが、その佇まいは鋭利で、余計な動きが一切ない。


「誤差では済まない。観測値はすでに逸脱している」


 穏やかな声が、少しだけ首を傾げた。 


「バタフライエフェクトって知ってるかい?こんな未来が起きることも、想定内だよ」


 その言葉に、三人目が、くすりと小さく笑った。


「……面白いなぁこいつは。実に面白い」  


 椅子に深く腰掛け、指先で光像をなぞる。


「でもよ、まだこいつ生きてる。それって地味に凄いことじゃね」


 軽い口調。だが、目は一切笑っていない。


「でもよ、どんな未来が待ち受けようとも、結局最後は収束するんだぜ」


 黒いローブの人物が、即座に切り返す。


「凄いなど、どうでもいい」


 その声は冷静で、だが一切の余地がなかった。


「危険だ。この個体はすでに我々に影響を与え始めている」


 石卓の空気が、わずかに軋む。


「本来、勇者は殉死する。それが世界の構造だ」


 今度は最奥にいる何者かが、ゆっくりと口を開いた。


「死んだ後の世界は、安定している」


 淡々とした断定。

 感情は感じ取れない。


「奴が生きている。それ自体が異常であり、我には到底理解不能な現象である」


 穏やかな声が、ゆっくりと息をつく。


「多分だが……おそらく全員、少し違った未来の景色を見ている」


 一瞬の沈黙。しかしそれは否定ではなかった。


 それは、全員が理解している事実。


 黒いローブの人物が、わずかに指を鳴らす。


「ならば、早急に処理すべきだ」


 その一言は、短く、明確だった。


「余計な枝が伸びる前に、断罪すれば」


 そこに、四人目の影がすかさず言う


「我は、殺すべきか、を論じていない」


 そして軽い調子の声が同調するように口を開く。


「だから言ってるだろ。いくら枝が伸びようと、未来は収束するんだよ」


「黙れ……」


 冷たい返答。


「切らなければ、神界そのものが巻き込まれる可能性がある」


 穏やかな声が、初めて少しだけ硬くなる。


「……それは、数多に存在する可能性のなかには、含まれていないな」


「なに?」


「前にも言ったけど、排除によって歪む未来は、君が想定しているより深刻なんだ、簡単に殺せばいいという話ではない」


 卓の上の光像が、わずかに揺れた。


「奴はまだ普通に見える。そして、我は奴の終わった先を見ているが、その世界は安定している。だから私はどちらの意見に転がろうが、何も変わらないと見ている」


 静かに、だが確信をもって。


「ただ、何も分からない今、奴に触れるのは火薬庫に火種を投げ込むようなものだ」


 再び沈黙。


 最後に、軽い声がまとめるように言った。


「だからさ、しばらく見ようぜ。介入は最終限で。結局の所、最後に見えているのは彼が死ぬ未来なわけだしさ」


 黒いローブの人物は、しばし動かなかった。

 やがて、短く言う。


「……次、何か怪しい行動をしたら、私は彼を殺しに行くぞ」


「そうか」


 穏やかな声が応じる。


「私は、彼を普通のまま、歩かせ続けるよ。僕は小さな分岐点を提示してるだけ」


 石卓の光像が、ゆっくりと収束する。

 そこに映るのは――


 始星寮へ戻る、一人の少年。

 

 誰も、答えは出し切れない。


 ただ、一つ全員が確信しているのは


 彼が確実に、壮絶な死を迎えること……


 神殿の光は、変わらず冷たく、ただ静かに、観測を続けていた。

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