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二十八話 開幕

「おおっとぉぉ!やってまいりました――前年度優勝校!セントラル地区代表! 王立アストラル・オルディア魔法学園!セントラル校!」


 ウォォォォ!

 地鳴りのような歓声が、円形の闘技場を何度も反響して押し寄せる。

 衝撃属性による音響魔法か、あるいは単純に構造の問題か――司会の声は、不自然なほど鮮明に届いていた。


「メンバーはこの五名!

 生命属性――オズワルド・リーフ!

 衝撃属性――ライオット・ブレイクハルト!

 水属性――セラフィナ・リュミエル!

 霊属性――アリエッタ・アニマリエ!

 そして火属性――グレン・アッシュフレアァ!!」


 うぉぉぉぉぉぉ!!


 歓声がさらに膨れ上がる。

 黄色い声、名を呼ぶ声、期待と好奇の入り混じったざわめき。


 とりわけ多いのは――

 つい最近勇者の称号を授かった、リュミエル家への声援だった。


「な、なんとこの五人中!四人が名家出身!

 才能・血筋・実績、すべてが揃った――

 まさにゴールデンメンバーだァ!!」


 煽るような声に、観客席が応える。


 だが――

 グレンの耳には、それらすべてが遠い。


「さぁ! ここでルールの確認だァ!」


 一拍置いて、司会が声を張り上げる。


「戦いは総当たり戦!各地区が互いに一度ずつ激突し、先に二勝した学園が勝者!もし勝ち星が並んだ場合は――戦闘不能者の少ないチームが勝利となる!!」


 声が、鼓膜に響く。

 それでも、うるさいとは感じなかった。


 緊張か。

 あるいは――意識が、すでに別の場所に向いているのか。


 グレンは、視線を動かす。


 自分たちではない。

 歓声の中心でもない。


 フィールドの反対側。

 まだ名を呼ばれていない、二つの地区へ――。

「続いて登場するのは――

 アストラル・オルディア魔法学園 ―イースト校―!」


 歓声は大きいが、どこか親しみが混じっている。

 拍手と共に、名前を呼ぶ声が点々と飛んだ。


「王都東部を支える学園!人の流れが激しく、日々の生活と隣り合わせで魔法を磨いてきた実地に強い代表校だァ!」


 フィールドに姿を現した五人は、派手ではない。

 だが、無駄がなかった。


 互いの距離。

 立ち位置。

 目線の配り方。


「路地、建物、視界の遮り――

 市街地を想定した訓練では右に出る者なし!場の流れを読む力に定評があるぞ!」


 観客席からは、

「堅実だな」

「うまい立ち位置だ」

 といった、通ぶった声が漏れる。


 グレンは、自然と目を細めていた。


 ――慣れている。

 戦う場所そのものに。


 司会は一度、声の調子を整える。

 言葉が、はっきりと区切られた。


「そして――

 アストラル・オルディア魔法学園 ―ウェスト校―!」


 拍手が揃う。

 歓声は大きいが、乱れがない。


「魔法学の体系化を担ってきた西部の要!基礎理論、詠唱精度、魔力制御――すべてにおいて高水準!」


 足並みを揃えて入場する五人。

 歩幅、姿勢、視線。

 どれもが、訓練の結果だと分かる。


「突出はしない!だが崩れない!積み上げた完成度で勝負する、安定の代表校だァ!」


 観客席からは、感心したような息が漏れた。


「きれいだな……」

「無駄がない」


 グレンは、静かに息を吸う。


 ――相手にしたら、厄介だ。


「さぁ出揃った!才能のセントラル!実地のイースト!完成のウェスト!同じ魔法、違う積み重ね――三校三様の戦いだぁ!」



 歓声が、天井を揺らす。


 グレンは、指輪の感触を確かめるように指を動かした。


 できることは少ないかもしれない。やれることはないかもしれない。でも――


「がんばりま……しょう」


 自然と口から言葉が出てきた。こんなに勝ちたいと思ったことは、勇者時代にもなかったかもしれない。ただ、単純な興奮と高揚。


 誰も何も答えなかったが、隣のアリエッタだけが、ぶんぶんと首を縦に振っていた……


 ――観客席は、思っていたよりもずっと高かった。


 石段を何段も登り、腰を下ろした瞬間、

 リノアは思わず手すりに指をかける。


「……高い……」


 声が、震えた。


 眼下に広がるのは、仮設の市街地。 屋根、路地、塀、木箱、井戸、看板。広場。 どれも町の形をしているのに、人が住んでいないだけで、ひどく無機質に見えた。


「すご……ほんとに町だね」


 カイナは身を乗り出し、目を輝かせる。


「でもさ、あれ全部壊していいってことでしょ?思い切り暴れられるじゃん!」


「……それが、やけに怖く感じるのじゃよ」


 ぽつり、とルリが言った。


 視線はフィールドではなく、その上――空気の流れそのものを見ている。


「人が集まると、空気は歪む。ましてや、勝ち負けを煽られれば……なおさらじゃ」


 リノアはごくりと喉を鳴らした。


「何が起こるか……わからないですね」


 歓声が、再び大きくなる。


 司会の声が、円形の壁に反射して何重にも重なる。




「――それでは第一試合!

 アストラル・オルディア魔法学園 ―イースト校―

 対アストラル・オルディア魔法学園 ―ウェスト校―!!」


 どおおっ、と地鳴りのような歓声。


 旗が振られ、火属性の花火が宙を舞う。


「来た来た!」


 カイナが拳を握る。


 フィールドの両端から、五人ずつの生徒が現れる。


 イースト校は、横一列に散開しながら、互いの距離を測っている。 視線が鋭く、無駄がない。


「……動き、早くない?」


 カイナが眉を上げる。


「揃ってる、というより……慣れてる、って感じですね」


 人の動きを見るのが得意な彼女らしい言葉で、リノアが答える。


 一方、ウェスト校は――


「……静かじゃの」


 ルリが言う。


 無駄口がない。 位置取りも、慎重すぎるほど慎重。 一歩一歩、地面を確かめるように進んでいる。


「では、バトルスタァァァァトォ」


 開始の合図と同時に、何かが弾けた。


 音は遅れて届く。 爆ぜるような光。 建物の影が崩れ、壁が粉を吹く。


「うわっ……!」


 リノアが肩をすくめる。


 魔法の詠唱は、どちらも同じ。 発音も、構文も、同一。


 それなのに――

 結果が、まるで違う。


 イースト校は、路地を使う。 角を曲がり、屋根を蹴り、塀を越える。


「速っ……!」


 カイナが息を呑む。


「連携してるっていうか……

 自然に分かれて、自然に戻ってる感じ」


「街と……一体化しておる」


 ルリが目を細め、その行動一つ一つを細やかに観察する。


「瞬時に地形を把握して、強力なポジションを取ってるようじゃな。パルクール能力も凄まじい」


 対してウェスト校は、正面から受け止める。 壊れた瓦礫を盾にし、視界を遮り、詠唱を通す。


「……あ」


 リノアが声を漏らした。


 一瞬の隙。 建物の陰から飛び出したイーストの一人が、相手の背後に回り込む。


 次の瞬間――

 響く爆音。


「きゃっ……!」


 リノアが目を閉じる。


 大きな地震と土煙が上がり、観客席がどよめく。


「……倒れた?」


「いや、まだ動いてる!」


 カイナが必死に目を凝らす。


 立っている者。 膝をつく者。 動かない者。


 勝敗が、少しずつ、だがはっきりしていく。


「……一回の戦いで……」


 リノアが、目の前の光景を見て口を覆う。


「……街が、壊れていく……」


 ルリは何も言わない。 ただ、胸元に手を当てている。


 鼓動が、わずかに速い。環境のせいか、体調のせいかは分からない。


「ほら見て!あそこ!」


 カイナが指をさす。その先には、手を構えたイースト生が詠唱した呪文の塊が見て取れた。


「うっわあれ、烈はありそうじゃない?大きな炎……」


「すっ……すごい」


 ドォォォン!爆裂音が響き渡る。再度土煙が舞い、辺りの情報を一時的に隠す。


「あれ見てみて!イーストの勝利だ」


 カイナが手をたたき、イースト校の勝利を祝福する。


 二名ほどの戦闘不明者が出たようで、救護班が担架を持って壊れた町中を走り回る。ここから、1時間ほどのインターバルを挟んで、次の試合に移行するようだ。


「壊れた町ってそのままなの?」


「戦場を再現するなら……しないんじゃないでしょうか……」


「じゃあ傷ついた人たちも、1時間後にまた出場させられるの!?」


 カイナが質問を飛ばす。まるで無知な子供のように。


「まぁ、戦場でそんなことは言ってられんじゃろうしな」


 ルリが、静かに呟いた……

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