螟「縺ョ繧「繧ケ繝医Λ
……気がついたら、そこにいた。
どこ、って言えばいいのだろう。
街……なのだと思う。形だけ見れば。
でも、誰もいない。
音も、風も、匂いも、温度さえも、ない。
まるで世界そのものを作り忘れたみたいな街。
「……うーん……?」
私は首をかしげる。
困っている、というより、ただの確認。
だって、こういうの、夢ではよくあることだよね。
そう思わないと、逆に落ち着かないし。
私の足音だけが、無音の空間に吸い込まれていく。
石畳はある。
建物もある。
影も、ある。
でも、それだけ。
扉を開けようとしても、取っ手がない。
窓は中の景色を映さない白紙の板。
道に沿って植えられた木は……近づくと、葉が描かれていなかった。
「……手抜き設計はよくないのじゃ……」
変な冗談を言ってみたけれど、笑えない。
通りの先に見える人影は、近づくほどに薄くなり、手を伸ばすと溶けるように消えた。
気味が悪い。
でも、怖くはない。
私、こう見えて慣れてるのよ、こういう変な夢には。
どの道を選んでも同じ景色に戻ってくる。
建物の角を曲がれば、必ず最初の広場に戻される。
「むぅ……」
さすがに、これはちょっとだけ苛立つ。
誰もいないのはいいとして、進まないのは嫌いだ。
石畳の真ん中に立ち、くるりと回って、私は空を見上げた。
そこに空はなかった。
ただの、白。
境界がわからないほどの白一色。
「グレン?ルーフェン?誰かおらんかー……」
自分の声だけが、少し遅れて返ってくる。
反響というより、確認されたような、そんな奇妙な響き。
反応が返ってきた気がして、私はもう一度声を出した。
「誰か、おるのか?」
……返事はない。
でも、なぜだろう。
誰かが存在する気配だけは、確かにあった。
足元の影が揺れた。
風のない世界でありえない揺れ方。
私はそちらに顔を向ける。
でも、何もなかった。
影の形が、ほんの一瞬だけ歪んでいただけ。
「……むむむ」
理由はわからない。
けれど、この白い街には、何か欠けている。
そして、何かが起こる直前なのだと、直感が告げていた。
「帰れればいいんじゃが……」
ぼそっと呟いた瞬間、広場の中心にぽたり、と黒い雫が落ちた。
インクのように濃く、世界に似つかわしくない色。
私は思わず近づく。
触れようとして――やめた。
あれは、たぶんまだ触れちゃいけないもの。
そんな確信だけは、不気味に強くあった。
「……夢ならば、こうすればっ」
軽く頬を叩いた――その瞬間、世界が揺れた。
ほんのわずか、空の白が濁った気がした。
その揺れに身を任せたところで、私の意識はふっと浮き、そのまま闇に落ちた。
広場の中心に落ちた黒い雫が、徐々にこの世界を侵食してることを、私はまだ知らない。




