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サイド シリウス・リュミエル

 沈みゆく夕日が王都の外壁を赤く染める頃、「陽だまりの洞窟」の前には魔法の残滓が残っていた。入口は粗くロープで封鎖され、周囲にはギルド職員たちが慌ただしく動き回っている。


 そこへ、七星剣の紋章を刻んだ白銀の鎧を揺らし、クァルトゥス隊が到着した。


 先頭の男──シリウス・リュミエルは銀青の髪を逆光に煌めかせながら、足を止めた。冷ややかな眼差しが、封鎖された洞窟を射抜く。


「ここは……僕も学生時代に潜ったダンジョン……こんなところに下層が存在するなんてな」


 ギルド職員が緊張気味に答えた。


「地盤が大きく抜け落ちまして……その下にAクラス級の階層があった可能性が高いと。魔力残滓の調査では、複数の反応が混じり合っており、どれが敵で、どれが生徒や冒険者のものか判別できません」


「生徒の魔力も、か?」


「……はい。ですが、一つ、違和感のある反応が。火属性に近いのですが、あまりの魔力量で近づくことすらままならず、捜査は難航していまして……」


 シリウスの眉がわずかに動いた。


「火……我々クァルトゥスが招集されたのも、その魔法を鎮火する為だろう。アステラフレア家の誰かが関わっているわけないしな」


 背後から、可憐な声が響く。


「お兄様。我々の教室にはそんな魔力量を有している者はいませんわ。いるとしても名前が酷使した無魔力の男くらい」


 セラフィナ・リュミエルが兄の隣に並んだ。品のある仕草だが、瞳には強い光が宿っている。


 兄を心から尊敬する少女。その背筋はシリウスを追うように真っすぐだ。


 シリウスは軽く顎を引いた。


「グレンは……すでに殉職しているはずだ。アステラフレア家はあいつがいなければ何もできない。ゆえにこの件に関わっているなどありえないだろう」


「ええ。勇者殉職の号外はアステラフレア家にも届いているはずですもの」


「ああ、我々リュミエル家が頂点に立つ機会が訪れたということだ」


 冷淡な声だった。シリウスがグレンを名乗る者を勇者として認めたことは、一度としてない。我々一族が最強だと、信じてやまなかった。


 牽制するようにクァルトゥス隊の隊員が口を開いた。


「隊長、内部から魔物の咆哮が。かなり深い位置ですが……Aクラスで間違いないかと」


「行くぞ。クァルトゥスは水の剣。火の残滓を洗い流すのは我々だ」


 シリウスの号令で、白銀の騎士たちがロープを外し始めた。固定金具がきしみ、洞窟の奥からは湿った風が吹き上がる。


 セラフィナは兄を見上げた。


「……気を付けてください、お兄様。今回の敵は、ただのAクラスではない気がします。地上にまで圧が届くなんて」


「恐れるな、セラフィナ。私はリュミエル家の嫡男だ。水は炎を呑み、荒れ狂う魔力さえ鎮める」


 頼もしさに、セラフィナの胸が熱くなる。


 クァルトゥス隊が洞窟に踏み込んだ瞬間、内部の空気が変わった。ぬるりとした黒い魔力の残滓が頬をかすめる。


「……この魔力の残穢、まさか敵モンスターがこれを……?」


 シリウスが剣を抜く。蒼い刃が、闇に輪郭を描いた。


「敵が来る、構えろ!」


 叫んだ瞬間、暗闇から巨大な影が飛び出した。Aクラス魔物──通常ならDクラスになぞいることはない怪物。


 轟音。鋭い爪が小石を削り、火花を散らす。


 シリウスは一歩も引かなかった。


 蒼い魔力が吹き上がる。


「泉よ舞え!アクルシア!」


 水系汎用魔法最上級、泉。これは水の源を呼び出す、最強の入力魔法。そしてアクルシア。呼び出した多量の水を繊細な魔力操作で操り、様々な形に変形させ敵を翻弄する。


 誰が見ても、才能がある若き獅子なことは一目了然であった


 だが、彼は何かが足りないと感じていた。


 それは、同じ聖教騎士団に最強を欲しいままにした男がいたからである。


 肥大化した漆黒のモンスターをひと薙ぎで片付けると、シリウスは凛とした表情でケツイを口にする。


「僕は、グレン・アステラフレアを超える」


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