十三話 極光のように輝いて
週末の朝。
階段状に連なった形状の王都に陽光が降りそそぎ、第四環区の細い路地もその光が少しづつ闇を消していく。
露店が並び、旅芸人の歌声が飛び交い、香草と焼き菓子の匂いが風に混じる。
ルーフェンは、子供二人を連れ、先頭で軽く伸びをする。
「さて……今日はローブを買うのが最優先事項。特にお前ら二人はまだ見繕うものが多いんだからな」
「はーい」
「うむ! わし、こういうの楽しみなのじゃ」
ルリは陽光の中でふわりと笑い、青い髪がさらりと揺れる。
その香りが、隣のグレンの鼻先をすっ、とかすめる。
「んっ……」
「ん? グレン、なにゆえ顔を赤くしとるのか?」
「べ、別に……!」
ルリはくすくす笑い、グレンは前を向いて歩くふりをするが、恥ずかしさからか耳の先まで真っ赤に染める。
「グレンは今日は恥ずかしがりやモードみたいじゃな」
アハハと豪快に笑うルリに気がついたのか、近くの露天商の男が小走りで近づいてくる。
「お、その感じは学園の子かい! アストラルアップルおひとつどうだ!」
「おおっ! もちろん欲しいのじゃ!」
ぱあっとルリの瞳が輝きを帯びる。
グレンはその圧に負けて自然と財布を出しかけたが、ルーフェンが無言で先に払っていた。
「いいよ、面倒見てるのは私だからな」
「あ、ありがとうルーフェン!」
「感謝感激なのじゃ、わし、お金のことを一切考えてなかったのじゃあ!」
そう言うと勢いよくリンゴにかぶりつき、ルリの頬がぷくっ、とふくらむ。
「ん……おお!甘ぁい……幸せじゃ……!」
その顔があまりにも幸せそうで、グレンは思わず見つめてしまう。
純粋すぎる笑顔は周りにいる人間すらも笑顔にしてしまうのだろう。露店のおじさんもグレンも、楽しそうなルリを見て口角を上げる。
「ほれ、食べるのもいいが、優先事項を思い出せ、すぐ目と鼻の先だぞ」
「さ、こっちだ。学園御用達の仕立て屋がこの先にある」
ルーフェンが案内した店は、木の温かみと上品な布の香りが漂う、本格派の店だった。
「おや、ルーフェン嬢じゃないか。今日は子どもたちのローブかい?」
大きな髭を蓄えた初老の男性が帽子をとって一つ礼をする
「そう。こいつら、まだ装備が揃ってなくてね」
見知った人物なのか、仲が良いのか、ルーフェンは満面の笑みで彼と接する。
「よろしく頼むのじゃ!」
ルリが挨拶をすると、老人は彼女を見て目を丸くした。
「……ほう。綺麗な髪色だねぇ。よく似合う布を探してやろう」
ルリのローブ選びが始まる。
青い瞳
瑠璃色の髪
それらが最も映えるように、なんと純白のローブが選ばれた。
試着して姿を見せた瞬間――
「……!」
グレンは息を呑んだ。
「ど、どうじゃ……? 似合っておるかの?」
「……似合ってる。すごく」
ルリはほんのり顔を赤らめ、裾をつまんでくるっと一回転。
「うん、可愛い。よく似合ってるよ。……ま、あんまり外で油断はするなよ?」
ルーフェンが目を細める。
護衛本能が騒いでいるのがグレンにもわかった。
グレンのローブも無難に整えられ、三人は店を出る。
店を出て少し歩いたところ。
細い路地の陰で、三人の影がざわついた。
「……おい、今の、始星のルリじゃね?」
カルナードが遠目で見つけたルリを見つけ、二人の肩をたたく。
「あぁ、ブラムが気になってたっていってたあの子か。確かに可愛らしくはあるな」
エルネストは鼠色の髪を靡かせて、ニヤつきながら横の男をちらりと見る
「…………」
「おっ、おいブラム、なんか答えろよ」
「………………」
「ブラム……?」
「おめぇまさか、本気で墜ちちまったんじゃねぇよな」
手をふるふるとブラムの目の前で振ると、ようやく2人に気がついたのか、目をパチパチさせながら一瞬だけ横を向く
「いやァ……別に……」
でも目は完全にルリを追っていた。
「てかよ、あれ誰だ? 一緒に歩いてんの。護衛っぽいけど……うわ、あれ絶対ルーフェンさんだろ。無理、近づけねぇって」
「圧あるよな……俺ら見られたら即死する」
「グレンもいやがるし、どうなってんだありゃぁ」
「よくわからん。一つ言えることがあるとしたら、あの野郎を虐め過ぎたら俺たちどうなるかわからんってことだ」
「影星でも目立つやつは気に入らねぇんだよなぁ。あと、俺のはイジリじゃなくてス キ ン シ ッ プ。陰キャな彼の1日に彩りを加えてあげてるだけだから」
「ははっ、よくいうわ。まぁ、どっかいったみたいだし、おれらも帰ろうぜ、おいブラムもいくぞ。あぁクソッ完全に目がイッちまってやがる」
カルナードとエルネストはやれやれといった風に彼を引きずって、ルリたちとは逆の方へ去っていった……
そしてブラムには、声にならない感情が、すでに芽吹き始めていた。
その日の夕方。
ルーフェンの家に戻った三人は、軽く食事をして風呂も済ませ、まったりとした空気に包まれていた。
ルリは新しいローブを抱きしめたまま、嬉しそうにうとうとしている。
「気に入ったならよかった。明日からちゃんと着ろよ」
「うむ……大事にするのじゃ……むにゃ……」
すぐ寝そうだ。
一方、グレンは窓辺で外の夕日を眺めていた。
感情に浸り、ぼんやりとした目で暗闇を見つめる。
リンゴを一緒に食べたこと
笑ったルリの横顔
手を引かれたときの感触
ローブ姿で照れた顔
胸がざわつく。
苦しくはない。
むしろ、温かい。
「……どうしちまったんだ、俺」
自分の中の感情が、まだ名前を持っていない。
ただ、確かに――
今日の一日は、特別だった。
「明日から実技だ。確か三日間あるんだっけ、何事もなければいいけどな……」
グレンはスッ、と椅子から立ち上がると、半分だけ空いた窓をそっと閉め、寝室に向かう。
心の奥で、今日の思い出たちが、ずっと淡く光っていた。
白い霧が薄く漂う早朝。
大路の空気を切り裂くように、金属の低い駆動音が近づいてくる。
「……来たわね、アストラルライン」
セラフィナが小さく息をのむ。
黄金の車体が滑るように停車すると、始星クラスは一気にざわついた。
ライオットが肩を回しながら笑う。
「いや~最高だな。歩かなくていいってだけで優越感ヤバい」
「声がでかいのよ、アンタ。影星が聞こえるじゃない」
「事実だろ? 乗れないんだから。制度なんだし」
仕方ないだろと言った風に両腕をわざとらしく広げると、やれやれといった風に降ってみせる
そして、逆サイドではカイナが、少し離れた位置でリノアがアストラルラインを見て眉をしかめる。
「うぅ……徒歩かぁ。こっから何分かかるんだよぉ」
すると隣で本を広げていたリノアが遠慮がちに答える。
「だ、だよね……六環って下りだけど広いから……」
「まあでも……仕方ないよね。規則なんだし」
彼女の声には自分らに対する同情より進まなければいけない単純な距離への面倒だという感情が強い。
始星と自分たちの間にある壁に、自然に慣れてしまっているような声。
そして、二歩ほど離れた先で、フードを深く被ったグレンは、それを聞き流すように黙って立っていた。
逆サイドの始星の何人かもちらりと彼を見る。
「……あいつ、なんて名前だっけ」 「アッシュフレア?マナが無いってやつだよな。地方の小貴族とか?」 「いや、平民じゃね?」
いい加減な推測だけが残り、興味はすぐ消える。
魔力ゼロで影星――
それ以上は、誰も興味を持とうとせず、続くことのない会話はなくなり、やがて誰もその事に触れなくなる。
しばし待った後、係員の声が突如響く。
「始星クラスの皆様、一人づつお乗りくださいませ」
おっ、と歓声混じりのざわめきが起き、始星たちは誇らしげに、楽しげにアストラルラインへ乗り込む。
扉が閉まる瞬間も、影星を振り返る者はグレンに対し手を振るルリを除き、だれひとりいなかった。
黄金の車体は滑車のレールをかすかに震わせながら、六環へ向けて一瞬で走り去る。
残された影星たちは、とぼとぼと無言で歩き出す。
その中でグレンは、すぐ横を歩くリノアをふと見た。
彼女は、既に疲れているのか、俯いたままローブの袖をぎゅっと握っている。
グレンは声をかけようとしたが――
結局、やめた。
仲間だと思われたら、彼女もいじめの標的になってしまうかもしれない。グレンの脳裏にそんな考えが浮かぶ。
リノアの顔から視線を外すと、グレンもまた俯いて、小さく深呼吸をすると歩みを進める。
カイナはそんな様子に気づいたが、特に声をかけることはせず、「ふぅ……歩くのってほんとめんどい」とぼそっと言うと、リノアの後ろにピッタリとついていくのだった。
イェルンはざっと生徒全員を見回し、ポケットに手を突っ込むと前を向く
「しゃあねぇ、規則だからな。ほら行くぞお前ら、ちょうどいいウォーミングアップだ」
影星たちはそれぞれのスピード感で、
霧の向こうへ続く六環への下り坂を歩いていった。
アストラル・オルディア王都の最下層――第六環区。
段々畑のような王都構造の最も外側に広がるこの一帯は、王都の食糧を支える農業地帯だ。畑と牧草地が広がり、朝露を受けて光る作物の匂いが風に乗って流れてくる。
影星クラスの一団は、まだ朝靄の残る道を歩きながら六環へと足を踏み入れた。
この日は三日間の基礎ダンジョン訓練の初日。
農地の中を一本の大通りが貫いており、農夫の運搬用一輪車や行商人の荷車が行き交っている。
その道をしばらく進むと、やがて建物が少しずつ姿を見せ始めた。
畑を挟んで点在するのは、冒険者や商人の利用する素朴な宿や食堂である。
目的の宿は、木造の二階建て。
道沿いに佇むそれは、派手さはないが、旅人を安堵させるような暖かな雰囲気を漂わせていた。
影星クラスは宿の前で立ち止まり、イェルンが軽く点呼を取る。
中に入れば作戦会議用の簡易スペースがあるらしく、生徒たちはどこか緊張した面持ちで集まっていた。
荷物を置き終え、全員が一階の広間に戻ったところで、イェルンは壁にもたれて腕を組んだ。
「さて……ここからが本番だ」
低い声が広間に響き渡り、ざわめきが静まる。
「これから向かうのは初等とはいえ、本物のダンジョンだ。
中には魔獣も出る。救助と監視の体制はあるが……」
一拍おいて、厳しい眼差しで言う。
「下手をすれば死ぬ。 それを忘れるな」
その言葉は、農村の素朴な空気とは対照的に、生徒たちの背筋を強張らせた。
だが、イェルンの声色は少し和らぐ。
「とはいえ、これは『お前らを落とす』ための訓練じゃない。今の実力を測るだけだ。出来ないなら、それでいい。これから伸ばしていけばいいだけの話だ」
誰かが小さく息を吐く。
「逃げるのも手段のひとつだ。命を投げ出す必要はない。影星は余り物だとか補欠だとか呼ばれるが……裏を返せば、伸び代しかねぇ」
その一言に、広間の空気が少しだけ明るくなる。
「それじゃあ、三人一組で班を作れ。
好きに組んでいい」
イェルンが言った瞬間、生徒たちは一斉に動いた。
友人同士で自然に固まる者もいれば、属性や役割で選び合う者もいる。
影星クラスとはいえ、皆それぞれ不安と野心を抱いている。
──だが。
グレンだけが余った。
広間の真ん中で、ぽつんと立ち尽くす。
魔法が使えない。
周囲はその一点をどうしても見てしまう。
グレンはあたりを見回すも、目があった人はわざとらしく視線を外していく。どうやら、仲間候補にも入れてはもらえないらしい。
心の中に苦味が広がる。
剣の腕はある程度鍛えてきたつもりだが、それでも魔法学園では異端だ。
一人になるなら仕方ない、一人でやるまでだ。そう思いかけたそのとき――
小さな影がグレンの真正面で立ち止まった。
「……あ、あのっ」
か細く震える声。
見上げると、そこにはリノアがいた。胸元でローブをぎゅっと握っている。
「リノア……?」
呼びかけると、彼女はさらに慌てたように両手を振る。
「ち、違うの……! えっと……あの……!」
言いたいことが詰まって、喉の奥で全部つっかえている。
横にいたカイナが、ニヤニヤしながら背中を小突いた。
「ほら、言っちゃいなよリノア。考えてること、全部!」
「カ、カイナは黙って……!」
リノアは思わず振り返り、しかしすぐ視線を戻す。
頬がほんのり赤い。
勇気を振り絞るように胸に手を当て、息を整えた。
そして、小さく震える声で言った。
「……もし、よかったら……その……」
一瞬、風が吹き、冷風が頬を撫でる。
リノアは視線を落としながら、それでも逃げずに続けた。
「わ、わたしたち……グレンくんが来てくれたら……」
ちがう、と思ったのか、慌てて言い直す。
「えっと……! その……」
そして、顔を上げる。
真正面から。
「いっしょに、来てくれないかな……?グレンくん、ひとりになっちゃうの……やだ、から……」
最後の言葉だけは、はっきりしていた。
カイナが満足そうに腕を組む。
周囲の影星たちは、意外そうにひそひそと視線を向けてくる。
グレンは一瞬だけ呆気にとられたあと――
胸の奥がじんわり温かくなるのを感じていた。
今までボロクソに言われてきた中で、純粋な優しさが心に染みる。
グレンはほんのわずかに、フードの奥で微笑む。
「……いいのか、俺で」
「う、うん! むしろ……えっと、その……」
リノアはさらに小さくなってもじもじする。
カイナが代わりに胸を張る。
「こっちこそだよ! 三人のほうが絶対いいって!ね、リノア!」
「ひゃっ……!ひゃぃっ……!」
グレンは小さく頭を下げた。
「じゃあ……頼む。よろしく」
リノアは、ぱっと顔を明るくして微笑んだ。
それは、影星の中で見せるには、あまりにも綺麗で、優しい笑顔だった。
ダンジョン前にある宿の食堂は暖色の灯りでほどよく明るく、スープと焼き肉の匂いが広がる温かい空間だった。
だが、座席にははっきりとした構図がある。
始星は中央の広いテーブル。
影星は壁沿いの雑多なテーブル。
同じ生徒でも、区分は食事のときでさえ揺らがない。
グレンはひとりで席を探していたが、ふと、カイナとリノアが壁際の四人掛けの席に座り、席を空けているのが目に入った。
勇気を出して歩み寄る。
「……ここ、座ってもいいか?」
カイナは即座に笑顔を向け、
「もちろんっ! 座って座って!」
リノアも胸元で手を重ね、小さく微笑む。
「う、うん……よかったら……」
グレンが席に着くと、自然と軽い雑談が生まれ、三人だけの穏やかな空気が生まれた。
その光景を、影星テーブルのさらに奥から見ている視線があった。
影星三人衆――
カルナード、エルネスト、そしてブラム・リーフ。
特にブラムの表情は嫉妬を隠せていなかった。
「あいつ……今日は妙に楽しそうじゃねぇか」
ブラムは肉をかじる手を止め、
グレンと、その隣で笑って話すカイナやリノアを睨む。
そして、さらに――
テーブル中央側、始星が座るテーブルにいる瑠璃色の髪に視線が吸い寄せられる。
ルリ。
彼女は始星の食卓の中で新品のローブを着て、ひときわ美しく、目立っていた。
フゥフゥと息は荒く、歯ぎしりが、肉の脂と混ざった口内でぐちゃぐちゃと音を立てている。
周りの視界を気にせず、とある一点だけを見続けていたのだった。
食堂のざわめきの中。
突然、ルリが椅子から立ち上がった。
始星の誰もが「え?」と目を向ける。
影星側ですら気がついた。
瑠璃色の髪を揺らし、純白のローブの裾を掴んで――
まっすぐ、グレンたちの席へ歩き出した。
食堂全体がしんと静まる。
「……影星の席に……?」
「始星なのに……?」
「なぜそんな事をする……?」
始星はもちろん、影星ですら息を飲む。
そんな視線の中、ルリはグレンの左隣へ来ると——
「グレン!わしも混ぜるのじゃ!」
勢いよく椅子を引き、どかっと座り込んだ。
三人と、当然ながら周囲の生徒たちは呆然とする。
「お前……始星のテーブルは……?」
「知らん。グレンのそばで食う方が旨いに決まっとる」
さらっと言う。
非常識さも、階級も、空気も、微塵も気にしていない。
まるで、これが当たり前かのような。まるで、こうするのが普通かのような。
彼女はニコッと、屈託のない笑顔をグレンに向ける。
そしてその越境の瞬間を、影星の奥からブラムは見ていた。
握っていた大きなパンが、ぐしゃりと潰れる。
「始星と影星は一緒にいちゃいけないんだ。今助けるよルリちゃん」
彼は立ち上がり、足音を鳴らして影星の通路を歩き、グレンたちの席のすぐ後ろへ。
カイナが「うわっ……」と眉をひそめる。
リノアは「うぅ……」と縮こまった。
ブラムは、グレンを無視してその奥にいるルリだけを見た。
「……ルリちゃん。どうしてこんな所に……?」
「あ?」
ルリが顔を上げ、淡い青の瞳が動く。
「始星の席の方が広いし、居心地いいだろ?
なんで影星なんかと――」
言いかけたとき。
ルリがピタリとスプーンを置いた。
「お主、何を言うとるんじゃ?」
「……な、なんだよ、別に……」
「わしは始星だか影星だかで座る場所を選ばん。グレンがここにおるなら、ここが一番じゃろう?」
そこには迷いも飾りもない。
ただの真実の声だった。
ブラムの顔が一瞬で赤くなり、次に青くなる。
「あ、あぁ……? そ、そう……」
言葉が崩れ、視線が泳ぎ、たまらずそのまま別の影星席へ戻っていった。
カルナードが「ブラム?」と声をかけても、返事はなかった。
ブラムが去ると、ようやく空気が落ち着き、カイナが息を吐いて肩を落とす。
「……なんかすっごいの来たね」
リノアもコクコク頷きながら、
「で、でもルリちゃんが来てくれたのは嬉しいなって……」
「わしも嬉しいぞ。グレンの仲間が増えるのは喜ばしいことよ」
ルリが胸を張ると、グレンは少し照れたように頭をかいた。
グレンは椅子に座り直し、どこか気恥ずかしそうにしながらも、カイナとリノアに向き直った。
「えっと……二人とも。この子は――ルリ。俺の……その、少し前から一緒にいる仲間みたいなもので……」
「仲間とは聞き捨てならんな、グレン」
ルリが口を尖らせ、椅子の上で小さくふんぞり返る。
「もっと他に言い方があろう? 相棒だとか、わし専属のお世話係とかとか」
「勝手に偉人みたいな肩書きをつけるなよ……」
カイナはぽかんとしたあと、急にニヤニヤしだした。
「へぇ〜、グレンくんってちょっと面倒くさそうな子と一緒に住んでるんだね!」
「め、面倒くさそう……?」
リノアが慌ててフォローするようにルリへ頭を下げる。
「ち、違うんですルリさん! あの、す、すごく可愛い方だなって……っ」
ルリはぴたりと動きを止め、頬を赤らめる。
「……むっ、そなた……いい子じゃな。気に入ったぞ」
リノアは一瞬きょとんとしたあと、ふるふると顔を振ると、前屈みの姿勢のまま顔を隠す。
それを見たカイナがリノアを肘でつつきながら、笑いを堪えている。
カイナはルリをみると、いたずらに笑いを浮かべながら呟く。
「リノアと同じで、ルリちゃんも照れると面白いね」
「照れてないわ! わしは常に堂々としておる!」
グレンは額に手を当てながら、ため息をついた。
「……まあ、こんな感じの子でさ。変わってるけど、悪い子じゃないんだ」
「変わってはおらん! わしは常識人じゃ!」
「はいはい」
カイナとリノアがくすくす笑い、影星席にしては珍しく、柔らかい空気が広がっていく。
その一方、影星端のテーブルでは、ブラムがスープをかき混ぜながら、こちらを睨むように、嫉妬と苛立ちをごちゃ混ぜにした目で見ていた。
グレンはそれに気づきながらも、今日ばかりは視線を返さなかった。
今は、初めてできた仲間たちと、この小さな丸テーブルを囲む方が、ずっと大事だった。




