プロローグ
ふと、思うことがある。
人は、生まれたその瞬間から自由に、何でも決められる、そんな権利を持っているのだろうか。
オレはそうは思わない。いや、『思えない』と言ったほうが正解なのかもしれない。
18歳になった今でもずっと、誰かに操られ、監視されている。
誰も、リュシアン・アーチャーという本当の人間を、まだこの時は知らない。
『おかえりなさいませ。お坊ちゃま。』
『おかえりなさいませ。』
ある日の夕方。オレが学園から戻った途端、執事をはじめとした10数人が、綺麗に横並びになり、お辞儀をする。
送迎は、大抵、爺の車。黒く光り輝いた車をあとにし、オレは自宅へ向かう。
銀色の頭髪は医者の父上譲り、赤色の瞳は画家の母上譲りだ。
アーチャー家は、代々医者で、そこで生まれた子供は、病院を譲るという【暗黙のルール】があった。
もちろん、生まれたから簡単になれるわけではない。患者の大事な命を扱う仕事なのだから、幼少期から、多大なる英才教育を受けさせられるのだ。
オレも物心ついた頃から、その事は分かっていたし、受け入れる準備はできていた。
このまま、オレは父上の手下となり、やがては後を継ぐ【アーチャー家の後継者】となる――そう、このときは思っていた。
『アンタ』に現れるまでは_____。
オレ様は確かに、あの時『ミヤ・モモカ』に恋した。
でも――。
今、目の前にいるのは、オレの全く知らない、じゃがいもみたいな宮桃香だ。
顔、声、仕草…彼女の一つ一つが、オレが知りたかったものの連続のようで。
知れば知るほど、心が痛くて、切ない。
それはきっと、オレとアンタが、『生きた次元』が違うからだと思う_____。