⭐︎出会い⭐︎
『ねぇ、あの子って男好きだよね〜』
『確かに!笑 なーんかムカつくんだよね』
そんな話で教室は盛り上がっている。
気づけばあたしは学校に行けなくなっていた。
でも、そんな自分を高校から変えたくて必死に独学で勉強をした。
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季節は春。あたしは地元から少し離れた高校に進学することが出来た。
「んー!今日からあたしは変わるんだ!」
あえて知り合いの少ない高校にしてみたけど。
不安がないわけではないのです。
「実音〜!」
「あ!お父さん!」
「遅れてすまない…!玲音がグズって!」
「玲音も連れてきて良かったのに〜」
玲音はあたしの弟。
そしてあたしにはお母さんがいない。
玲音が産まれてすぐに家を出ていってしまった。
あたしが不登校になってすぐの出来事だった。
「実音は高校に行くの平気なのか?父さんは通信でも就職でもどちらでもいいんだぞ?」
「またまた〜!あたしは大丈夫!地元の人誰もいないから!」
「実音が頑張るなら父さん応援するぞ!!!」
「はいはい!保護者はもう体育館に行かなきゃでしょ?」
お父さんは渋々心配そうに体育館へと入っていく。
不安な気持ちはあたしも同じだけど変わるって決めたんだから…
「あ、クラス確認しなきゃ…確か玄関先だったかな」
玄関前は生徒で溢れていた。
ギャルの女の子と男の子で溢れていった。
見たいけど…少し待ってみた方がいいのかな…
「おー!うさちゃん!お前もこの高校にしてたんか!」
「えー!うっちー!」
え?うさちゃん?女の子かな…?
「うるせーよ、その名前で呼ぶんじゃねえ」
目の前には綺麗な黒髪の高身長の男の子が立っていた。
あんな綺麗な人初めて見たかもしれない。
思わず見惚れていると目が合ってしまった。
「おい、もしかして俺ら邪魔になってんじゃねぇの?」
「えー?」
視線が一気にあたしに向けられる。
ど、どうしよう…こういうの苦手なのに…!
「気づかなくてごめんね?クラス表見たかったんだよね?」
目の前には少し茶髪の優しそうな女の子だった。
なんとなくその雰囲気に安心したのかやっと言葉が出てきた。
「あ、いえ…その、ごめんなさい!」
「…ふふ!なんで謝るの〜?笑」
「あ…確かに…」
「あたし、山本由奈って言うの!」
これは友達が出来るチャンス!!
「あ、あたしは立花実音です!」
「実音ちゃん!よろしくね!」
「なんだよー!山本だけずりぃよ!俺は泉太陽よろしくね!」
「よ、よろしく!」
「んで、こいつが宇崎洸だよ!俺はうさちゃんとか洸とか呼んでる!」
あ、名前が宇崎くんだからうっちーとか呼ばれてたんだ。
「お前だけだろーが!まぁ、よろしく」
「よ、よろしく!」
「…ところで実音ちゃんは何クラスなのー?」
「えっと、cクラスだ…」
「え!洸と同じクラス!ずりぃーな!」
「…いいなぁ!」
あ、もしかして山本さん宇崎くんの事好きなのかな…
『ねぇ、あの子って男好きだよね〜』
「…っ!」
もうあんな事にはなりたくない!
好きな人なんか大人になってから探せばいいし、高校生活は静かに過ごしたい。
『新入生にお知らせします、後15分で入学式を開始致します。直ちに教室へ入っって下さい』
「ヤッベ!じゃ、俺と山本はB組だから!立花さん!洸がサボらないように見張っててね!」
「え!そ、そんな!」
どうしよう!今さっき話しただけなのに!
ちらっとそこをみるともうすでにだるそうな顔をして逆方向へ歩き出す。
「あ、あの!!」
「…何」
「き、教室はこっちで!」
「…一緒にサボる?」
「え?」
「なんかお前真面目そうだし、サボった事とかないだろ?笑」
な、なんか今ばかにされた!?そりゃサボったことはないけど…!
「バカにしないでよ!」
「急に大きな声出すなよ、なんだよ」
「あ、あたしだって放課後に買い食いしたことあるんだから!」
「…プッ!ハハ!!お前って面白いやつだな」
あ、宇崎くんってこんな顔で笑うんだ。
見た目に合わず子供っぽい笑顔なんだなぁ。
「じゃ本当のサボりを教えてやるよ」
「え!ちょっと!どこに行くのよ!」
あたしの腕を掴んでグングン歩き出してしまう。
この姿、誰かに見られていないかな。
山本さんに見られたら…きっとまたあの時に戻っちゃうのかな…
でも、今は宇崎くんの手を離したくない気持ちが大きい。
「ねぇ、ここって…」
「ここ普段は空き教室なんだけどほら」
窓の外には綺麗なピンクの桜が一面に咲いていた。
「綺麗…!」
「だろ?面接の時ここの教室使ったんだけど綺麗そうだなーって」
「宇崎くんってこういうの好きなんだね」
「んー、まぁサボりもたまには必要じゃん?」
「……あたし、変わりたくてここの高校選んだんだ。その…中学時代はあまり
学校生活が上手くいかなくて…不登校だった自分を変えたくて少し遠くのここにしたの」
宇崎くんは何も言わずに黙ってあたしを見つめながら聞いてくれていた…
こんなことを初対面の人になんで話ちゃってるんだろ…
「ごめん!こんな話されても困っちゃうよね」
「…いいんじゃない?」
「え?」
「変わりたい、変われると思ったから俺についてきたんだろ?」
なんか、全てを見透かされているような気持ちになる。
でもその目は怖いとかそう言う気持ちはない。
「うん!宇崎くんとなら変われる気がする!」
「おま…そう言うことは心の中に閉まっとけよ…」
「あ、ごめんなさい…!」
「別に怒っちゃいねぇよ、てかお前の名前なんだっけ」
「さっき言ったのにもう忘れちゃったの?」
「うるせぇ!俺は名前覚えるの嫌いなんだよ!」
「立花実音です!覚えて下さいよ!」
「はいはい!立花ね」
まだ学校に入学したばっかりだけど滑り出しは上々…
『生徒の呼び出しをします、1年c組 立花実音と宇崎洸の2名は大至急校長室に来ること』
「「あ!」」
でもないのかもしれない……。