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#7 盆

 今日も日差しは強く、ギラギラと辺りを照りつける。お寺には墓参りをしている人が複数人、集まっていた。その中に墓を参る様子がない二組の男たちがいた。


「よし。それじゃ、また坊さんに聞いてくるわ。そこで待ってろ」


「わかりました」


 昨日のようなチャラチャラとした格好ではなく、ビシッとした黒のスーツ姿の春明は寺の中へと入っていく。達海は額から噴き出る汗をぬぐいながら、入り口の階段に腰を下ろした。

 

     


 時は遡ること朝の六時。カフェ陰陽に着いた達海は、春明と共に千代子が生前住んでいた家に出向いた。古びた民家だったものの朽ちてはいない。次の入居者まだおらず、また、取り壊されていないところを見ると最近まで誰かが住んでいたのだろう。


「依頼者の爺さんが最近まで居た可能性が高いな」


 春明がポツリと呟いた。


「でも引っ越してしまっていたらほぼ手がかりはなしですよね。どうします?」


「よし、この周辺の墓を探そう。ちょうど盆だ。親族が墓参りに来るかもしれない」


 住んでいた家がここなら、千代子の墓もこの周辺の墓地にある可能性は高い。それが春明の考えだった。

 そこから、周辺の墓地を四箇所まわった。その道中、達海は春明のことについて聞いた。


「春明さんは陰陽師なんですか?」


「まあ、一応な。先祖が陰陽寮から追放されてるから正式な陰陽師ではないが。それでも呪術なんかは使えるんだ」


「そうなんですね。その力を使っていつも幽霊の手助けをしたりしているんですか?」


「いつもって訳じゃないんだが、成仏を助けてくれる生者が居るって噂を聞きつけた霊がたまにカフェ陰陽にやってくるんだ。幽霊同士がコミュニティをつくることはそうそうないんだが、コミュニケーションは取るらしくてな。まあ、なるべく協力するようにはしてる」


「へぇー。幽霊ってそんなにいるもんなんですか」


「たとえば……ほら、あそこ」


 春明はもこもことしたジャンパーを着た女性を指差した。


「え? 夏なのに暑々とした格好……あれ幽霊なのか」


 達海は目を細め、凝視する。その様子を見て春明は笑った。


「そうか、まだ生者と幽霊の区別がつかないのか。よく見てみな、幽霊の体は少し揺らいで見える」


 達海が彼女のことをよく見てみると、確かに、その女性は少し揺らいでいるように見えた。


「今回はたまたま見つけたが、うじゃうじゃいるもんじゃないよ。まあ、カフェ陰陽では数人の幽霊と暮らしてるが、ちょっと厄介な奴らでな。保護してるんだ」


 厄介な奴ら……レイもそうなのか?


 達海は少し不安な表情を見せた。春明はそれに気付き、すぐに補足を入れる。


「厄介ではあるが悪い奴らじゃないからよ、今度会ってやってくれ」




「おう、見つけたぞ。いやぁ、坊さんがいる墓地でほんと良かった」


 春明が階段に座る達海の背に向かって話しかける。


「やっとですか」


 達海は汗をぼたぼた垂らしながら、気だるげな表情で振り返った。

 二人は梅澤家の墓の前に向かった。しかし、そこに花やお供物はなかった。まだ誰もお参りには来ていないようだ。


「坊さんの話によると、爺さんも数年前に亡くなってるらしい。女性が毎年この時期に花を供えに来るらしいからちょっと見張ってみるか」


 それから、二時間ほどが経っただろうか。寺の階段から見張っていると、梅澤家の墓の前に一人の女性がやってきた。達海たちは、今日は誰も来ないことも覚悟はしていたのだが幸運であった。春明が女性に声をかける。


「梅澤千代子さんの親族の方ですか?」


「……はい、千代子は私の母ですが」


 女性はビクッとした後、少し警戒しながら答えた。


「わたくし、生前の千代子さんと関わりがあったものなのですが、一郎さんに宛てたお手紙を預かっておりまして」


「一郎は……父は母が亡くなってから、すぐに亡くなりました。……では手紙は私が預かります」


 春明はいつの間にか用意していた手紙を女性に渡した。女性は相変わらず警戒を解かない。それはそうだ。目の前に、よく分からない怪しいおじさんとメガネの根暗そうな青年がいるのだ。しかも、怪しいおじさんはチャラい髪型にスーツ姿。まるで詐欺師のようである。春明はそんな女性の様子をよそに話し続けた。


「一郎さん、盆栽を育てていませんでしたか」


「ええ、生前は盆栽を育てていたようですが……。それが何か?」


「いえ、千代子さんから聞いたことがあったもので。わたくしも盆栽を愛でるのが好きでしてね、いやー、ぜひ一郎さんの自慢の品を一目見てみたかったのですが」


「……ああ、一つだけ父が死ぬ間際まで大切にしていた盆栽が私の家にあります」


 春明の体がピクリと動いた。


「その盆栽、何か奇妙なことが起きたりはしてませんか?」


 すると女性は食いついたように話し始めた。


「ええ。夜な夜な、その盆栽の方からカタカタと音がするんです。不気味に思ったのですが、父が大切にしていたものなので捨てることもできず。近々、警察に相談しようと思っていたんです」


「その盆栽、もしよろしければ今から見せていただいてもいいですか。わたくし怪奇現象には少々詳しいもので」


 春明はそう言うと、女性に名刺を渡した。


「カフェ陰陽……安倍春明さんですか」


「ええ、陰陽師の安倍です。こちらは助手です」


 達海は軽く会釈する。名刺には陰陽師とは決して書かれていない。カフェ陰陽だ。騙すみたいなことをして、と達海は春明に冷ややかな視線を向けた。


「分かりました、自宅にご案内します。私、美代(みよ)と申します」


 美代と名乗った女性はすっかり警戒心を解いてしまっていた。相当、怪奇現象に悩まされていたのだろう。このような人が詐欺被害に遭ってしまうのだと達海は思った。

 達海たちは美代の車に乗せてもらうこととなり、駐車場へと向かう。


「美代さんの自宅にお爺さんの幽霊がいるんでしょうか。それにしても盆栽に奇妙なことが起こっているとよく分かりましたね」


 達海が春明に言うと、春明は得意げに答える。


「婆さんによると爺さんは、かなり盆栽を大切にしていたみたいだからな。もしかしたらって思ったんだ」


 すると、春明は真剣な顔つきになりこう続けた。


「おそらく、爺さんの幽霊がそこにいる。ただ、もしかすると俺たちの望んでいる結末にはならないかもしれねぇ。覚悟しておけよ」


 それは、お爺さんの幽霊が悪霊になっているかもしれないということだろうか。達海は気持ちが引き締まるように感じた。

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