#13 幼女と犬の骨
達海と春明、そしてカフェ陰陽の幽霊たちは、幼女の幽霊から話を聞いていた。
「君、名前は?」
アクタからの優しい問いかけに、幼女が懸命に答える。
「百香はね、百香っていうの」
「百香ちゃん。可愛い名前だね。それじゃあ百香ちゃん、助けてほしいワンちゃんはどこにいるのかな?」
続けてフォトも優しく百香に問いかけた。
「あのね、あっちにいるの」
百香はぴょんぴょんと軽く飛び跳ねながら窓の外を指差した。きっと指さした方向にその犬がいるのだろう。百香は話を続けた。
「箱の中にね、ワンちゃんがいたの。百香ね、毎日そのワンちゃん見に行ってたんだけど、バンって急に体が痛くなって。百香、何してたかわからなくなって」
皆が、うんうんと百香の話を静かに聞く。
「百香、ワンちゃんのところに行かなくちゃって思い出したの。でもね、ワンちゃんホネホネになってて。百香ね、お墓を作ってあげようと思ったの、でも上手くできなくて、ホネホネが持てないの。パパもママも百香を無視するし……。でもね、泣いてたらね、おじいさんがここに連れてきてくれたの」
「そっか、百香ちゃんはワンちゃんのお墓を作ってあげたいんだね」
フォトが涙ぐむ百香を宥めるように、彼女の頭を撫でながら言った。
「そうか、犬の墓を作ってやるだけなら、俺が行くまでもない。天池、行ってやれ」
「俺が? 今から!?」
春明が窓の外を親指でさしながら言うと、達海は少し面倒くさそうに反応した。
「頼むよ天池。まず、犬の骨を土に埋めるのは俺たち生者しかできない」
春明が言うと、この話を飲み込めていない様子の達海にお嬢が補足する。
「私たち幽霊は現世に存在する物を動かすことは苦手なのですわ」
するとマッチョが部屋にある椅子に近づき、実演しながらさらに説明を続けた。
「ワタクシたち幽霊はこの椅子に触れたり、すり抜けたり、座ったりすることができる! しかし、動かそうとすると……」
マッチョは椅子の背もたれを持ち、力いっぱい引っ張る動きを見せる。しかし、椅子が数センチほど動いたのち、マッチョの手は椅子をすり抜けてしまった。
「このように、すぐにすり抜けて少ししか動かすことができない!」
「説明ありがとう、お嬢、マッチョ。こんなふうに普通の幽霊はこの程度しか物を動かせない。霊魂のエネルギーが強ければ、強いほど物を動かす力も強くなるようだがね。ポルターガイストって知ってるかい? ありゃ、相当にヤバい悪霊の仕業だよ」
ポルターガイスト。心霊番組なんかでよく見る、物が勝手に動き出すというやつだ。
説明を終えた春明は続けて達海に話す。
「とゆーわけで、この子の依頼を遂行することができるのは俺ら生者だけだ。この子の未練が犬の墓を作ってやることかどうかはわからんが、やってくれるよな、天池」
「春明さんは行かないんですか」
「俺は祖父さんと交代して、この店を見てないといけないから。それに、こんなことで面倒がっていたら、レイの成仏なんて見届けられないぞ」
春明はニヤリとして言った。
「わかったよ、行ってきますよ」
達海があからさまに面倒くさそうな雰囲気で言うと、レイが立ち上がった。
「私も行く!」
春明はやっぱりかという表情でレイに視線を向ける。
「今日は……まあ、大丈夫か。行ってこい」
「やったあ」
春明が渋々了承すると、レイは満面の笑みで喜んでみせる。
懐中電灯を持った達海とレイは百香と共にカフェ陰陽を出た。
達海たちは百香に連れられて、コンクリートで造られた建物へとやって来た。ショピングモールだったのだろうか。廃屋となり、相当な年月が経っているようだった。
百香は達海の腕を引っ張りながら、立体駐車場だったところへと足を急がせる。
駐車場の一階。月明かりも届かないこの場所で、達海たちは懐中電灯の灯りを頼りに進んでいく。
すると、太い柱のすぐ脇に小さなダンボールが置かれていた。達海たちが近づき、中を覗いてみると、綺麗に白骨化した子犬の死骸が入っていた。死んでしまってから、もう相当な年月が経っているのだろう。
「じゃあこのワンちゃん、春明さんの知り合いが居る、近くの寺の土に埋めてやるから、そこにお墓を作ろう」
達海はダンボールに近づくと、手を合わせる仕草をしてからそれを持ち上げた。
「よかったね、百香ちゃん」
レイは百香に笑顔を向ける。
「うん。ありがとう! お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
そう笑顔で言った百香の上半身は、瞬く間に彼女の背後から薙ぎ払われた太い棒状の物体により、消し飛んだ。
「は?」
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