表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/132

祠に続く道のりと怪しい影

 全力で走った。


 もともと運動神経は自慢できるほどでなかったのに加え、運動不足(船上での食っちゃ寝の生活)のせいか、距離はあまり進んでないのに息が弾んでゼイゼイ弾んでいた。


 それでもずいぶん登ってきたように思う。


 遠くに聞こえていたはずの鳥の声がずいぶん大きく聞こえ始めたことに気がつく。


 この一本道をそろそろ引き返してきてもいいはずなのに、男性達は誰もこない。


 それだけ祠までの道のりは遠いのだろうか。


 風が急に冷たくなって、鳥の羽の音や鳴き声でもビクリとする。かなり怖い。


 だけど、ひとりでこの山に残るウィルのことを考えたら、進まずにはいられなかった。


 わたしが言い出したことだったのだ。


 ましてや京さんなんてとんでもない。


 その時、何かが聞こえた。


 足跡のようなもの……


 悲鳴のようなもの……


(え……)


 こっちに向かってくる。


 それも勢い良く。


「うわぁぁぁあああああああああ!」


「え、えええっ!」


 びっくりした。


 ウィルを運んで行った男性達だった。


 血相を変えて駆けてくる姿は恐怖でしかなかったけど、正体がわかったことに内心ほっとした。


「うわぁぁあああああああああああああ!」


 またしても、わたしを見て飛び上がる男性達。


(こちらのセリフよ)


 確かに、今日この日のこの夜道に女がいるのは不気味なのだろう。


 しかも髪の毛も服装もずいぶんボロボロなのは見なくてもわかる。


(それにしても驚きすぎよ)


 何をそんなに怯えているのか。


 わたしの存在を把握したあとも彼らは逃げる者もいれば腰を抜かして立てなくなるものもいる。


「た、助けてくれー!」


(どうしてこんなに、叫んでいるの……)


 嫌な予感がした。わたしも全力で走り出す。


「お嬢さん! そっちへ行ってはいかん! 戻りなさい!」


 後ろからしっかり聞こえた。


「生贄として食われるぞ!」


(ということは、ウィルが食べられそうってこと……?)


 疲労ゆえか、どんどん足が重くなる。


 心が震えて力が抜けていくのを感じる。


 バカなわたしは怖くて立ち止まってしまっていた。


 ウィルひとりに……こんな危ないことをさせたくせに……


「何が……わたしが行く、よ! 京さんの前で格好つけただけじゃない! 本当は……怖いくせに……」


 体中が縮こまる。


 だけど、悔しくて気付いたら体を震わせながらも私はまた誰もいなくなった道に向かって足を進めていた。


(怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……)


 本当は怖くて怖くて仕方がない。


 それでも先を急いだ。


 だんだん木が多くなり始め、まっすぐ伸びていた一本道の幅を狭くしていっている。


 月明かりが道を照らしてくれなくなり、周りがさらに見えにくくなる。


 おかげで余計に葉の揺れる音とかするたびに、何かが出てきたと思ってしゃがみ込んでいた。


「怖いよぉ……怖いよぉ……」


 今にも泣き出しそうだった。


「ウィル……怖い……怖い……こわ……」


 ガサガサという音が聞こえた。


「ひっ!」


 鳥たちが逃げるように飛び上がり、その音はだんだん近づいて来た。


 再び恐怖で動けなくなる。


「ローズ、逃げろ!」


 どこからともなくウィルの金切り声が響いたのはその時だった。


 ウィル!と叫びたかった。


 嬉しくて嬉しくて、今すぐにも飛びついて行きたかった。


 だけど、それは叶わなかった。


 気付いたらわたしは、何者かに後ろから腕を捕まれ、首元には小刀を向けられていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ