祠に続く道のりと怪しい影
全力で走った。
もともと運動神経は自慢できるほどでなかったのに加え、運動不足(船上での食っちゃ寝の生活)のせいか、距離はあまり進んでないのに息が弾んでゼイゼイ弾んでいた。
それでもずいぶん登ってきたように思う。
遠くに聞こえていたはずの鳥の声がずいぶん大きく聞こえ始めたことに気がつく。
この一本道をそろそろ引き返してきてもいいはずなのに、男性達は誰もこない。
それだけ祠までの道のりは遠いのだろうか。
風が急に冷たくなって、鳥の羽の音や鳴き声でもビクリとする。かなり怖い。
だけど、ひとりでこの山に残るウィルのことを考えたら、進まずにはいられなかった。
わたしが言い出したことだったのだ。
ましてや京さんなんてとんでもない。
その時、何かが聞こえた。
足跡のようなもの……
悲鳴のようなもの……
(え……)
こっちに向かってくる。
それも勢い良く。
「うわぁぁぁあああああああああ!」
「え、えええっ!」
びっくりした。
ウィルを運んで行った男性達だった。
血相を変えて駆けてくる姿は恐怖でしかなかったけど、正体がわかったことに内心ほっとした。
「うわぁぁあああああああああああああ!」
またしても、わたしを見て飛び上がる男性達。
(こちらのセリフよ)
確かに、今日この日のこの夜道に女がいるのは不気味なのだろう。
しかも髪の毛も服装もずいぶんボロボロなのは見なくてもわかる。
(それにしても驚きすぎよ)
何をそんなに怯えているのか。
わたしの存在を把握したあとも彼らは逃げる者もいれば腰を抜かして立てなくなるものもいる。
「た、助けてくれー!」
(どうしてこんなに、叫んでいるの……)
嫌な予感がした。わたしも全力で走り出す。
「お嬢さん! そっちへ行ってはいかん! 戻りなさい!」
後ろからしっかり聞こえた。
「生贄として食われるぞ!」
(ということは、ウィルが食べられそうってこと……?)
疲労ゆえか、どんどん足が重くなる。
心が震えて力が抜けていくのを感じる。
バカなわたしは怖くて立ち止まってしまっていた。
ウィルひとりに……こんな危ないことをさせたくせに……
「何が……わたしが行く、よ! 京さんの前で格好つけただけじゃない! 本当は……怖いくせに……」
体中が縮こまる。
だけど、悔しくて気付いたら体を震わせながらも私はまた誰もいなくなった道に向かって足を進めていた。
(怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……)
本当は怖くて怖くて仕方がない。
それでも先を急いだ。
だんだん木が多くなり始め、まっすぐ伸びていた一本道の幅を狭くしていっている。
月明かりが道を照らしてくれなくなり、周りがさらに見えにくくなる。
おかげで余計に葉の揺れる音とかするたびに、何かが出てきたと思ってしゃがみ込んでいた。
「怖いよぉ……怖いよぉ……」
今にも泣き出しそうだった。
「ウィル……怖い……怖い……こわ……」
ガサガサという音が聞こえた。
「ひっ!」
鳥たちが逃げるように飛び上がり、その音はだんだん近づいて来た。
再び恐怖で動けなくなる。
「ローズ、逃げろ!」
どこからともなくウィルの金切り声が響いたのはその時だった。
ウィル!と叫びたかった。
嬉しくて嬉しくて、今すぐにも飛びついて行きたかった。
だけど、それは叶わなかった。
気付いたらわたしは、何者かに後ろから腕を捕まれ、首元には小刀を向けられていた。




