同じ色の瞳を持つ男
気付いたら部屋を抜け出していた。
あれから袴姿のお姉さんたちが何人かやって来て、今わたしが身につけている真っ赤で大きな美しい『薔薇』の模様の袴を着せてくれた。
どうやって抜け出したかは覚えていない。
気づいたら外にいて、わたしの足はなぜかあの大きな橋を目指していた。
ママが命を狙われて、そしてそれを救った人が命を落としたという場所。
夕日も姿を消し、夜の闇が顔を出す。
王妃様の言っていた通り、提灯がゆったり揺れ、あたりを照らしているものの、その明かりはなんとも心もとない。
そのせいか、道行く女性の姿がだんだん少なくなっているのは知っていたけど、それでも城にいて居てもたってもいられなくなるのよりはいい。
履いている下駄という変わった履物は歩くたびにカランコロンと音を立てて、なんだか不思議な感じだった。と、いうかとても歩きにくい。
ウィルにだけは声をかけるべきだったと思うけど、そんな余裕がなかった。
考えても考えてもわからない。
もやもやする一方だ。
穏やかな風が髪を揺らす。
(え……)
石碑の近くに行った時、先客がいた。
その人は膝をついて黙祷をしているようだったけど、全身をマントで覆っていて性別は不明だ。
ふと初めて会ったときのウィルを思い出した。
あれからどのくらいの時が流れただろうか。ずいぶん昔のことに思える。
大きな石碑には、真ん中に文字が書かれていた。暗号のようなその文字は、外国語で読むことができない。
先客が去ってから近づこうと考えていた。
その時までは。
(えっ?)
わたしの気配に気づいたのか、その人は振り返り、しまった!と思ったときにはすでに遅く、見覚えのある瞳の色と目があった。
(あ、青い……)
「シャヤ!」
考えるよりも先に大声でその名を叫んで勢いよくその人はマントを取った。
(えっ……)
息が詰まった。
そんなはずはない。
脳内でもうひとりのわたしが必死に否定を続けていた。
こんなところに、いるはずがない。
青い瞳、金色の髪、背が高く、そして整った顔立ちのひとりの男性がこちらを凝視していた。
王妃様の言葉が脳裏をよぎる。
「………」
「あ、すみません。あまりにも知り合いに似ていたもので……」
一瞬の間を置き、苦笑を浮かべる男性。
声が出なくなる。
だ、だって……この人……
「君もこんな時間にこの人に用?」
優しく微笑んで、石碑の前を開けてくれる。
「あ、あなたは……?」
声が微かに震えていた。
石碑のことよりも、目の前の彼から目が離せない。
「親友だよ。この人の。本当は堂々と明日の祭にも参加したいんだけど、ちょっとこの姿は目立ちすぎるからね」
自分の髪を触って男性は肩をすくめる。
まさか……
「だ、誰と……間違えたんですか……?」
おずおずと。
それでもしっかり見つめ返して聞いていた。男性は少し驚いたようだったけど、すぐに懐かしそうに微笑んだ。
「妻だよ」
周りの音が止んだ。
世界がわたしだけになった気がした。
見開いた目が、痛かった。