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ジパン国

「……ズ……ローズ……」


 耳元でわたしを呼ぶ声がする。


「ん……」


 窓から目映い光が射し込んできている。


 意識が戻ってくるのを感じる。


 まだ、目覚めたくない。


「ママァー!」


 目を開いたとき、メルが飛びついてきて、そして後ろのウィルは安堵したように微笑んだところだった。


「お、おはよう……」


 状況に理解ができず、まだ働きそうもない頭の中をフル回転させる。


「ど、どうして、わたしの部屋に……」


(えーっと……)


「ど、どうしてっ!」


 ようやく事態を呑み込んだわたしは全身から熱湯が湧き上がる感覚と同時に毛布を顔までかぶった。


 メルを巻き込みかけて反省する。でも……


(ね、寝起きなのよ! む、無理無理無理!)


「なーに言ってんだ。三日間も寝続けたくせに。こっちは本気で生きてんのかと心配してたんだからな」


「み、三日……」


「そう。三日。」


「っ、えーーーーーーーーーーーーーー!」


 どおりでお腹が減ってる訳だ。


 信じられない。


「よくもまぁ、三日も寝れるもんだ……」


 溜息混じりにメルを抱き上げ、部屋を出ようとするウィルはさらりと続けた。


「『ジパン国』に着いたぞ」


「ええ! 本当?」


 いつの間に。


「ああ、昨日の夜到着した。長かった船旅もこれで一時休戦だ。とっとと着替えて見に行こうぜ」


 言う割にウィルの様子はいつもと違ってそう嬉しそうに思えないのは気のせいか。


「まぁ、外では兵士達のお出迎えだけどな」


「え?」


 思わず視線を向けた窓の先に、驚くほど大勢の兵士達にこの船は囲まれていた。


 これ以上近づけないのか、ある一定の距離できれいに一直線に並び、こちらを見据えている。


 そして、もうひとつ一気に視線を奪われたものもある。


(え!)


 窓に吸い寄せられるように見いる。


(と、東洋人?)


 漆黒の髪色が目に入る。


 見慣れない光景に息を呑む。


 見慣れないけど、なぜか懐かしさを感じる。


「初っ端から戦闘って気分じゃねぇけど」


 不敵に目を細め、ウィルはわたしにメルを任せ、片手に竹箒を持つ。


 またウィルの剣使いが見られると思うとわくわくする。


 何かあればすぐに逃げればいいんだ。


 意を決してスニーカーの紐を閉める。


 案の定、見慣れない衣装に身を包んだ兵士達は船から降りたわたしたちに長い刃を向けた。


「っ!」


 それも束の間。


 すぐにわたしの顔を見て、目を見開く彼らは順に跪いていく。


 わたしもウィルも、状況が飲み込めず、口をぽっかり開けてしまう。


 続く一言も。


「お帰りなさいませ、シャヤ姫」 


(は?)


「国王陛下も王妃様も、そしてこの国中の者たちみながあなた様のお帰りを心待ちにしておりました」


(こ、こくおう……へい……か……? おうひ……さま……)


 脳内でゆっくり単語を噛み砕く。


 思考がついていかないまま、柔らかな音色に包まれて、遠くの方からも響き渡るような壮大な拍手が起こり始めた。


 何が何だかもうさっぱりだった。


「シャヤ様のお帰りだ!」


「御子も連れておられる!」


 次々に袴姿の人間が集まってくる。


 わたしたちは一気に囲まれてしまう。


 みんな黒い瞳に髪の人達……


「えっ、えっとぉ……」


「誰かと間違われてるみたいだな。『シャヤ』って人と」


 その名を知っている。


 懐かしいあの笑い声が頭をよぎる。


「ママよ」


「え?」


「シャヤはわたしのママの名前なの」


 ウィルの表情が引きつった。


「やっぱり……」


 ずっとそんな気がしていた。


 本人はジェクラムアス人だと言い張っていたけど街では珍しい容姿や他の人とは少し違うところもあり、もしかしたら先祖の誰かに東洋の血が入っているのかもしれないと思ったこともあった。


(だけど……)


 頭が真っ白になってしまう。


 胸がチクチクした。


 それからわたしたちは、無理矢理に馬車に乗せられ、この国の真ん中に大きくそびえるお城に連れて行かれることとなった。


 もちろん歓迎モード全開で今までで一番手厚くもてなされたように思う。


 薄紅色のお花が咲き誇り、街を彩っている。


 途中、メルは初めて見る今までと一風変わったジパン国の街並みに感嘆の声をあげていたけど、わたしにはその様子に何も感じることができなかった。


 隣のウィルは、吐き気をこらえ、ガタガタと震えるわたしの手をずっと握っていてくれた。

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