嵐の日の出来事
少しして、デッキから戻ってきたウィルとメルは雨やら海水やらをびっしょり浴びていて、想定通りだったとはいえなかなかひどい状態になっていた。
いささか不機嫌そうなウィルと、そんなウィルに抱かれ、さっきとは打って変わるほど上機嫌で尾に変わった足をばたつかせているメルは速攻お風呂行きになった。
(ええ、当然の結果よね)
静かにその背中を見守っていた。
「マーマ! しゅごかったよぉ!」
タオルに包まれたメルが飛び込んでくる。
「ぐらぐらしてねぇ~滑り台みたいなの~」
想像したくない光景が目に浮かび、ぞっとする。
「そ、そう。パパに感謝しなきゃね……」
苦笑をこらえつつわしゃわしゃと拭いてやると、その間中メルは嬉しそうにきゃっとはしゃいでいた。
本当に元気になったものだ。
「そう? じゃねぇよ! すっげぇ大変だったんだぞ! 出た瞬間にまず雨か海水でずぶ濡れして戻ろうとしたらメルは流れてくし……」
険しい顔でウィルが出てくる。
「死ぬかと思った……」
よほどのものだったらしい。
その顔は全てを物語っていた。
「こんなお天気に外に出たらどうなるか、ふ、普通はわかるわよ」
本当、行かなくてよかった。
というよりもドアを開けた瞬間に海水が侵入してこなくてよかった。
「あ、スープ作っておいたわ」
なんとなくこうなる気がしてたのだ。
そうしてわたしたちは席に付いたけど、メルはひとり、ずっと上機嫌で踊り続けていた。
「やけに元気になったわねぇ、あの子……」
やっぱり子供ね。
つくづく感心してしまう。
「やっぱり少しは海水にあたっとかないとダメみてぇだな……」
「あ、だからデッキに?」
メルを見て、ウィルは静かに頷く。
「でなかったら俺もあんな無謀なことはしないよ」
「で、ですよね」
数分前とは別人のように元気ハツラツとしたメルの様子に心がいたんだ。
「やっぱり、海に戻りたいのかな?」
「どうだろ」
そんな様子を目で追っていたら、自然と会話がなくなっていた。
「さて、メル姫が元気に戻ったということは、本日メル当番の俺としては夜が大変だ! ということだ」
そう言ってウィルは部屋に戻っていく。
どうせまた本でも読んでいるのだろう。
ここへ来て、またウィルの読書量が増えた。
わたしも本を読むのは大好きだけど、わたしよりも上をいく読書家と初めて出会った気がする。
加えて、わたしは海に出てからあまり海に関する書籍を手にすることがなくなっていた。
本にも書かれていない予期せぬ出来事をたくさん目の当たりにしていて、予想と対策を練る以前に目を背けておきたい現実……のようになってしまっている気がする。
どうせ起こることなら起こってから考えたい。軽く現実逃避だ。
何もすることがなく、かといって窓のある自室には戻りたくないし、とりあえずわたしはメルの遊びに付き合うこととなった。
そんな嵐の日の出来事。




