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彼は戦友

「……ウィル、痺れてないの?」


「え?」


 ウィルは少し驚いたように、腕の力を緩めてわたしを見つめる。


 かなり近くでキラキラしたその顔を目にしたものだから、目のやり場に困って叫んでしまいそうになったのはここだけのお話だ。


「ま、ママに習った護身術だったの」


 きっと違う国に伝わる技なのだと思う。


「この技だけは自信あったんだけどな」


 思った以上に余裕の有りそうなウィルに、申し訳ないような悔しいような気持ちになり、また可愛くない言葉を並べてしまう。


「だけは、ってことはまだあるのか?」


「まあね」


 自分の身は自分で守れと言われていた。


 そんなわたしに対し、おっかなそうに顔を引きつらせるウィル。


「でも、ウィルには効かなかった」


「いや、俺、まだ包帯を固定するために分厚いコルセットはめてるから」


 ウィルは軽く自分のそれをなでて苦笑する。


「服一枚だったら、瀕死だったんじゃ……」


「そのくらいの加減はできるわよ」


「こ、こわっ!」


 何がおかしかったのか、ウィルはいきなり声を上げて笑い出した。ずいぶん至近距離のため、生きた心地がしない。


「な、何よ?」


「いや、改めて思ったんだよ。おまえを敵に回すと怖いなって」


「そんなことないはずよ。ずっとか弱く見せてたんだから……」


「へぇ」


 わざとらしく深緑の瞳を見開くウィル。


「あのさ、ローズ」


 そして、その美しい光に私を映す。


「すべてを話せとは言わない。俺もこれから話すべきことも今はまだ言えないこともある。でも、旅をともにする上でもっと頼ってくれていいから」


「へ?」


「言いたいことがあれば言ってほしい」


 聞くから、とその瞳を優しく細める。


 言えないことがあるとどさくさに紛れて宣言した上で何を……と言いたくもなったけど、わたしはただ黙って彼の胸に頭を預ける。


 わたしは……


「ず、ずゆーい!」


 ぽてっという馴染みのある音が聞こえ、いつの間にか起きたのかメルが上がってくるのが見えた。


「ママだけずゆーい! メュもぎゅってすゆぅー!」


「な! メ、メル! 違っ! これは……」


 今の状況では説得力はゼロだけど、勘違いしきったメルはわたしの言葉も聞かず、頬を膨らませる。


 その様子に盛大に動揺した。


「子ども相手に慌てすぎだろ」


 おかしくて仕方がないといった様子でわたしの頭に添えていた手を離し、メルに手招きするウィル。


「おいで、メル」


「ふふっ!」


 満面の笑みでウィルに抱きつくメル。


「あのさ」


 いたたまれなくて慌てて立ち上がったわたしはメルを抱き上げたウィルに呼び止められる。


「俺は探しているものがあるんだ」


「ああ、うん。前も言ってたね」


 真剣な瞳のウィルにドキッとした。


「助けたい人がいる」


「え……」


「嘘か本当かわからない。でも、些細な情報だって頼りたい。そこでしか手に入らないと言われているものをこの手にしたいんだ」


 口角を上げて不敵に笑うウィルの表情は自信に満ち溢れていた。油断をしたら吸い込まれてしまいそうだった。


「だから本当は、強力な仲間がいてくれて心強いと思ってる」


「はっ!」


 ノ、ノックアウト。


 ぼんやりと見つめていたわたしは、身を縮こませて、挙げ句声さえ出なくなってしまう。


 普段は素っ気ないけどウィルの一言はいつも人の心を動かす力を持っている。


 きっとこれもこの人なりの気遣いで、いつものように意識なんてものは全くしていない言葉なのだろうってわかってる。


 わかっているのにやっぱりまた頬を熱くしてしまうなんて、わたしは困ったものだ。


 メルと楽しそうに会話を交わしながら階下へ向かうウィルの背中を眺めていたら、自然と口元がほころんだのがわかった。


「ちょ、待ってよ!」


 涙を拭って、わたしも彼らに続いた。

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