夢の中で
夢を見た。
心地よくて、やさしい世界。
『あ、あれ!』
見たこともない世界を指さして大はしゃぎするわたしは力いっぱいレイの手を握っている。
『み、見て、レイ! すごいわ!』
『見てるわ、ローズ! もう、はしゃぎすぎよ!』
レイは困ったように笑って、わぁ!と感嘆の声を上げた。
『こんな世界が本当にあるのね』
『ね! 言った通りでしょ!』
得意げなわたしは、目を輝かせて先の景色に夢中になるレイを見て嬉しくなった。
そんなふたりの姿を、どこからともなく眺めているわたしがいた。
これは夢だ。
客観的に眺めていて思う。
都合の良い夢を見ている。
だけど、目の前を楽しそうに通り過ぎるわたしの姿があまりにも幸せそうで動けなくなっていた。手放さなければ得られた日々がそこにあった。ずっと当たり前だった毎日。
だけど、この幸せを壊してでも、見たかった世界があった。
ただじっとなんてしていられなかった。
わたしは全てを捨てて、ここへ来た。
夢だった世界の中に立っている。
これでよかったのよと自分に言い聞かせるたびにもうひとりの自分が問うてくる。
本当に、これでよかったの?
闇は悪夢だ。
不安という名の罠を幾度となくしかけてくる。
わたしはこの先、どこに進みたいのだろうか。
この大切な時間を壊してまでも行動する必要があったのだろうか。
ひとりになると余計なことばかり考えてしまう。
パチンッ!
突然場面が変わり、陽の光が灰色の景色に変わる。
パチン!
後方で何かが弾ける音がした。
それは一度ではない。何度も何度も。
振り返るとそこにはひとりの男が立っていた。
『あ、あなたは……』
男が手にする丸い結晶は、何度も燃えるように赤く染まり、弾け散る。
何度も何度も原型を取り戻してはまた形を失い、その繰り返しだ。
『ど、どうして……』
探していた。
ずっと探していた。
『どうしてここに……』
手を伸ばしても届かない。
声が出したくても音にならない。
やがて男の手に持つ光が、少しずつあたり一面を染めていく。
男は悔しそうに顔を歪める。
『ま、待って……』
声にならない音は、パチパチと徐々に大きくなる音にかき消されていく。
『わ、わたし……』
光に包まれる。
何も見えない。
ああ、目覚めてしまうのだな。
本能がそう悟った。




