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異国に住む女性たち

「旦那さん、男前だねぇ」


 あれから草木がいっぱい生い茂った道をただひたすら歩いたわたし達はユーシス族の住む集落に辿り着いた。


 テントや藁で作られた家が多い。


『す、すごい!』


 初めて見る光景に思わず感嘆の声を上げてしまい、まわりの人たちを笑わせたほどだ。


 そのくらいこの光景は魅力的に見えた。


 文字やイラストでしか見たことのなかった世界は想像していた数倍以上の壮大さと美しさを持っていて、このまだ見ぬ地が存在していたことが信じられず、胸の辺りがきゅっとなった。


 すごく場違いな行動に出てしまったと慌てふためいたのはそのすぐ後のことなのたけど。


 そうして、恐る恐る家から女性たちが覗く集落へ到着したとき、ウィルは治療を受けに行くことになり、キルさんを先頭に数名の男性達に付き添われ、わたし達のもとから去っていった。


 別れ際、何かあったら使えと護身用(だと思う)の笛を手渡され、わたしはそれを首にかけていた。


 とはいえ、ここまで来てしまったら危険どころの問題ではないと自身の危機管理能力のなさを改めて考えることとなる。


 何かあったところでそう安々とウィルひとりで助けに来られるはずがない。


 そんなわたしとメルは、キルさんに指示を出された若い男性達について、女性ばかりが集まる藁の家で接待を受けることとなった。


 初めは人種の違うわたしたちをユーシス族の女性は警戒していて、ただじろじろ見てはあのよくわからない言葉で会話を交わすばかりだったが、一切警戒心のないメルがあまりに楽しそうにするものだから、それが吉と出たのか徐々に心を開いて接してくれるようになった。


 それからは質問の嵐だった。


 主にウィルの話でもちきりだった。


 あの男はやはり、国内外を問わず魅力のある容姿をしているようだ。


「だ、旦那さんってウィルは違いますよ!」


 ユーシス族の女性は室内にいることが日常なのだそうで女性達が集まって過ごすことがほとんどなのだそうだ。


 おかげでいつも様々な会話に花を咲かせているのかかなりのミーハーが多く、慣れた途端すぐにウィルの話が始まった。


 近くの子どもたちと一生懸命に遊ぶメルでさえ、羨ましく思えたくらいそれはあまりにも驚きばかりのひとときだった。


「それに可愛らしいお子さんまでいるなんて」


「いや、でも……」


 どう反応していいのか困る。


「奥さんも美人だからお似合いね」


「い、いえ、わたしは……」


 こんな感じで永遠と質問は続く。


 みんないつもどこから情報を仕入れてくるのだろうかと驚いてしまうほど、家の中にいる暮らしで仕入れた情報とは思えないくらい話題性は豊富だった。


 この土地にもたまに侵入者が現れることがあるらしく、男性達はそんな侵入者にずいぶん神経を尖らせていたらしい。


 だけど女子おんなこどもの侵入者は初めてだと彼女達は笑った。だからますます興味が湧いてしまうのだと。


 わたしも自分の住んでいた街以外の女性達とこうしてゆっくりお話をするのは初めてだったから新鮮で楽しかったのは事実だった。


「どうして旦那さんはこの民族の言葉が使えるのかしらね?」


 ずいぶん古くから伝わる言葉なのだという。


 そういえば、そうだ。


 ここへ来て初めて聞いた言葉だった。


 わたしは何も知らない。


 世界のことも、ウィルのことも。


 それがなんだか少し寂しかった。

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