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ユーシスア国

「コヤケマ、ダイィーダ? ハヒヨホダ?」


「へ?」


 よくわからない言葉が頭の中を巡る。


 何語……なのだろうか。


 自分の使っている言語以外の言葉も存在することは知っていたけど、予想もしないタイミングだったため驚いた。


「え、えーっと……」


 なんて言えばいいんだろう?


「ヤナ、チンヒュクチャサ!」


 後ろの方で槍のような物を持った男性が勢いよく怒鳴ってくる。


 逃げ出したいのは山々だけど、逃げられる状況でもないし、あまりの迫力に縮こまる。


「ツイィヤテン。ユツエェガクイィヒコニネチヤッネ、ツソチソソデ、ラツヤテネヨワッネナンデツ」


 男性たちの後ろから、メルを抱いて現れたウィルがそう言った。頭が真っ白になる。


「ウ、ウィル? い、一体……」


「侵入者だと勘違いされてるみたいだ」


「ええ? どうしよう! ってウィル、言葉わかるの?」


「少しだけ」


 恐怖でどうにかなってしまいそうなわたしとは裏腹に、ウィルは平然している。


「メル、こわくないから」


 大丈夫だよ、とメルに言い聞かせているその姿に言葉を失う。


「ユーシス族の言葉だと文献で見たことがある。それに、きっとこれを使える人たちは俺らと同じ言葉も使えるはずなんだ」


「見たことがあるって……」


 それだけで話せるというのだろうか。


 この男も相当謎ありな人物だと思う。


「ローズ、メルを頼む」


 そう言うなりメルをこちらに預け、ウィルは『ユーシス族』と呼んだ数人の男性たちに向き直り、自信ありげに微笑む。


「そうですよね? みなさん」


(え? 何? どういうこと?)


 わかっていないのはわたしだけ。


「あなた方は一体?」


(え!)


 突然、わたしにも聞き取れる言葉が『ユーシス族』のひとりから漏れた。


 先ほどよりもずいぶん彼らが動揺しているようで、武器を握り直すものまでいてますます心配になってくる。


「先ほども申し上げた通り、この子が海に落ちてしまって、それで……」


 まるで形勢逆転したようだ。


 ウィルが生き生きと話し出す。


「勝手にあなた方の領地へ侵入したことはお詫びします」


 慣れた動作で優雅に一礼するウィルにわたしだけでなく、ユーシス族の方々も動きを封じられていた。


「話を聞こう」


 後ろの方から、迫力のある声がした。


 次から次へとなんなのだろうかと、わたしはぎゅっとメルの小さな体を抱き寄せる。


 きっとここで一番怖がっているのはわたしだ。


 彼らはじっとウィルを見つめていたものの諦めたようにすぐに手に構えて持っていた槍を下ろして、音もなく声の主に頭を垂れた。


「お前の話はまことか?」


 一番強そうで、そして威厳たっぷりの男性が一歩前に出る。


 他の男性たちに比べ、貫禄もあり、年長者なのだろう。周りのものが道を開ける。


(これが書籍にある一族の『おさ』という人なのかしら?)


 恐怖よりも好奇心のほうが湧いてきて、つい乗り出そうとしたわたしを制し、苦笑したウィルがメルの頭を軽く撫でる。


「もうすっかり元気になったようです」


 柔らかく返されたその受け答えは、まるでこの空間には合っていないものだった。


 けれど、その穏やかさがこの場の空気を変えた……気がする。


 メルも嬉しそうにきゃはっと笑う。


 それでも『長』(でいいのよね?)の鋭い目つきだけは変わらず、ウィルから視線を外さない。


「では、重症なのはおまえひとりか」


「え?」


 声を上げたのはわたしだった。


 『長』の迫力にびくびくと怯えつつも、その声はしっかりと発することができた。


「どういうこと?」

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