謎の民族
「おーい、ローズ。まだ外にいたのか?」
デッキからウィルが呼んでくる。
「い、今行くわ!」
「や、いいや。天気もいいし、バケツに水でも入れてくから水浴びでもさせようか?」
そう言うなりウィルは珍しく上機嫌で下りてきた。しかも本当にバケツに水をいっぱい入れて。
水につけると不思議なことにみるみるうちにメルの足は元の小さな足に変化を遂げた。
「さて、どうする?」
メルがひとりでバケツの中で遊んでいる間、隣のウィルはボソッと聞いてきた。
「メルのこと?」
「そう……だけど、なんかさっきより吹っ切れてない?」
「だって、メルはメルでしょ?」
自分自身にも言い聞かせるようにメルを見つめ、続けた。
視線の先には楽しそうに笑うメルがいて、その姿に自然と口角が上がった。
メルはぴったりくっつく服を絞って楽しそうに遊んでいた。足が戻って嬉しいみたい。
「これでも反省してるのよ」
一瞬でも彼女に怯え、その手を離してしまいそうになったことを。
「海の向こうにはわたしの知らない世界が山ほどあると思っていたのよ。人魚に変身できる女の子がいたって不思議じゃないわ」
「変身って」
意気込むわたしに、ウィルはおかしそうに笑みを漏らす。
「そう、だな」
ウィルは優しい瞳をメルに向け、そしてわたしを見て、思い出すようにははっと笑った。
「な、何?」
「なんか、最近変わったな」
「え、そう?」
「ひとつのことでうじうじしなくなった」
「はっ?」
「泣き虫は変わらないけどな」
むぎゅっと鼻を引っ張られて唖然とする。
「ちょっ!」
視線がぶつかり、飛び上がる。
(ち、近いっ……)
何からつっこんでいいかわからないけど、とりあえず思った以上に縮まった距離にむねがどぎまぎさせられる。
「それに」
そんなわたしをものともせず、ウィルは続ける。
「メルの親らしくなってる」
「なっ!」
「いや、親だったらこんな感じなのかなぁ?って……」
想像したら笑えるのだと楽しそうに告げるその意外な言葉に全身が火照るのを感じる。
「し、仕方ないでしょ?」
きっと今のわたしはゆでタコのようだ。
「メルの前でわたしは『ママ』なんだから!」
「よく言うよ。ちょっと前まで『ママ』って呼ばれるだけで、飛び上がってたくせに」
「な! ウィルだって固まってたじゃない!」
知ってるのよ、と言い返してやると珍しく動揺するウィルの様子が新鮮で私も思わず笑ってしまった。
「それに、何? 準備いいわね。メル用のタオルまで持ってきちゃって」
それこそ、初めてであった頃の彼からは考えられないほど万全の準備体制だ。
「俺も同じだよ」
くすくす笑ってやると、ウィルは何も言わず、メルの所に行っちゃったけど、その後ろ姿を見ていたら、何だか嬉しくなった。
ウィルだって、変わったと思うよ。
ウィルの姿に、きゃあきゃあと楽しそうなメルの声が響く。
そんな風にメルに楽しそうな顔をさせているくらいウィルは……
(……え?)
そこで、初めて気が付いた。
裸の上半身をいくつも連なった大きなアクセサリーで覆い、槍のような武器を持った褐色の肌を持つ背の高い男達の集団がわたしの周りを取り囲んでいた。




