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人魚の女の子

「え?」


 思わず耳を疑う。


(に、人魚ですって?)


 恐怖のあまり、目を背けたかった現実にまた視線を戻してハッとする。


 そう、ウィルの言うとおりだった。


 食べられたわけではなかった。


 メルの体の下半身の部分が赤い魚の鱗で覆われていたのだ。


 信じられない、という想いでメルを見てしまう私に、メルは嬉しそうに笑って赤い尾鰭をパタパタさせた。


「ど、どうして……」


「海に入った時には既にこれだったよ」


 み、水に濡れたから?


「で、でも普段は水に濡れてもこんな……」


 一度もメルのこんな姿を見たことがなかった。


「海水だったからだろ?」


 なぜウィルはここまで冷静なのだろうか。


「メルを乾かしてやって。俺は先にシャワーを浴びてくるから」


 途方に暮れるわたしとは対照的に淡々とそう述べるウィルはメルを私に預け、自分は何事もなかったようにシャツの水を切り、中に入って行く。


(い、一体どうしろって言うのよ!)


「ママ?」


 気付くとわたしの胸元をぐっと握り、顔をすりすりさせていたメルが不思議そうな顔でわたしを見ていた。


 その小さな手は、少し赤くなっていた。


「メリュのあち、どうちちゃったの? メリュ、おしゃかなしゃんに、たべらえちゃうの?」


 ありったけの力でわたしにしがみついてくるメルの小さい体は少し震えていた。


(ああ……)


 そうよね。


 一番驚いているのは、メル自身なのに。


 そんなメル相手に、わたしが動揺していちゃだめよ。


(こんな姿、とか言っちゃったわ……)


「ごめんなさい」


 あなたはあなたなのに。


「もう、このおてんば娘がっ!」


 ぐっと力いっぱい抱きしめ返しやると、きゃははっとメルは高らかな声を上げる。


「メルはママ達がだめだって言ってた手摺に上ってたから……」


 おしおきよ、とできるだけ明るく努めて頭を撫でてやると、メルは濡れた頭をぐったり私の胸に押しつけてきた。


「ママ、ごめしゃい……」


「ウィルの後にメルもシャワーしようね」


 赤い瞳を細め、ふわっと微笑むメルはまるで天使のようで、私たちがここ数日見てきた彼女の姿だった。


「メルはメルだもんね」


 メルの足に代わって魚の尾鰭のようなものはぴちゃぴちゃと音を立てて上下する。


 違和感がないわけではなかったけど、メルの瞳と同じ赤い色の尾鰭も尾鰭で、メルなのだから受け入れたいと思う。

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