不安定な心境
レイは、いつもそうだ。
いつも現実的で夢見ることをくだらないことのように言う。
ついこの前までは同じように舞台で観た夢物語や見たこともない王子様についてあれやこれや想像して語りあっていたのに、今ではそれをありえない現実だと主張する。
わかってる。
レイの言うとおり、顔すら知らない相手を夢見ることが普通ではないことくらい。
だけどいつの間にかレイは大人の階段を登り始めてしまったようで寂しくなるのだ。
ずんと空気が重くなり、慣れ親しんだ夕暮れ時の帰り道が永遠に続くように感じられた。
かっとなったものの、わたしはすぐに我に返って後悔することとなる。
膨らんだ風船が一気にしぼんだみたいにわたしの頭もさーっと冷えたのだ。
会話を失ったこのタイミングで、一体何をどう言ったらいいかわからず、的確な言葉を探すもわからなくなる。
「王子様って肖像画の通りならずいぶん素敵な人なんだろうけどね」
先に沈黙を破ってくれたのはレイの方だった。
わたしが口をつぐんでしまったからか、少し気まずそうではあるものの遠慮がちに口角を上げてこちらに目を向けてくる。
「やっぱり女の子だしね。相手にされないってわかってても憧れるものよね」
そう言ってレイは軽くウインクした。
(ああ……)
もやもやしていた気持ちが一瞬で罪悪感に変わった。
理由はなんとなくわかっているんだけど、先ほどまで黒い靄が自分の中でいっぱいに広がっていくのがわかった。
出口のない道をもやもやと手探りで歩き、行き場のない感情がぐるぐるとわたしの中で迷子になる。
「わたしだって憧れてたわよ」
だけど、そんな迷宮に優しい光が差し込んだように感じられた。
レイの気遣いがじわじわと温かいものに変わり、胸いっぱいに広がってきて、気付いたら思わずレイに抱きついていた。
わたしは最近、不安定だ。
「レイの方が好きだけどね」
これだけのことでも涙が出てしまう。
見られたくなくて、必死にレイの肩もとに顔をうずめる。
「何言ってんのよ! わたしが街中の男の子たちに恨まれちゃうわよ!」
ぎゅっとレイも抱きつき返してくれる。
込められた力に胸がギュッと痛んだ。
レイが大好き。なによりも。
本当に、そう思うよ。