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悪夢の行方

 バキッ!


 様々な思いが脳裏をよぎる中、決死の覚悟を決めたとき、何かが折れたような低く鈍い音がした。


 腰を抜かしかけたわたしが恐る恐る目を開いた時、何か大きなものが吹っ飛び、すさまじい音ともに地面に叩きつけられていた。


 砂埃が鼻孔を刺激する。


 目を凝らした先に先ほどの大男がうめき、横たわっているのが見える。


 足元には真っ二つの鉄パイプが転がっていた。


「え……」


 状況が理解できないわたしが混乱する目の前には、意外な人物が立ちはだかっていた。


「大丈夫か?」


「ど、どうして……」


「何やってんだ、おまえは」


 大男たちの方に目を向けたまま、ウィルの声が向けられたのがわかった。


 変わらない声に心なしかほっとした。


 左肩に大きな袋(きっと寝具が入っているのだろう)をさげ、右手に布団叩きを持っている。そしてあろうことか、それを構える。


 かなりおかしな光景なのに笑うことすらできないのは、彼の雰囲気がいつもと違ったからなのだろう。


 一体何が起こったのか、わからない。


 なぜ大男が吹っ飛んで、鉄パイプが真っ二つなのかも理解が追いつかない。


 きっと目を閉じた瞬間に何かが起こった。


 ただそれだけはわかった。


「めんどくせぇ」


 その言葉とともに、世界がまた一変した。


 なんなんだろう、この光景は?


 なにがなんだかわからない。


 ウィルがそこにいたことも、そして目の前で消えるような速さで移動したウィルが布団叩きを持つ手を振り上げただけなのに、また他の大男たちがひとり、またひとりと軽く吹っ飛んでいることとか。


 一同は静まり返り、誰もが息をすることさえ忘れたかのようにその場は静まり返っていた。私ですら、動くことができず、ただじっとその光景を眺めているしかできない。


 いつの間にか置かれていた寝具の袋が足元でバランスを崩し、はっとする。


(え、えっとぉ……)


 なんだか、怖かった。


 いや、怖いなんてもんじゃない。


 空気が凍りついたようだった。


(こ、この人は、誰……)


 今まで隣で笑い合っていた人物が、なんだか遠い別人のように見えた。


「何? もう終わり?」


 ウィルが不気味に笑う。


女子おんなこどもは相手にできて、俺にはできねぇってか? とんだへっぽこ集団だな」


 楽しそうにしているのはウィルだけ。


 誰も動けない。


 いや、みんな気を失いかけている。そんな風に見える。


「ローズ、行くぞ」


 こちらに目を向けることなく、ただそう言うと、ウィルは呆然とするわたしの腕を掴んで走り出した。


 少しの間をおいて、後ろの方から「追え!」という怒鳴り声も聞こえたけど、誰ひとりとして追いかけては来くことはなかった。


 そりゃそうだろう。


 後追いするにも無謀すぎる。


「ああ、もう、何連れてきてんだよ」


「へ?」


 やっとのことでブラック・シー号の前に到着した時、わたしの腕の中で震えている幼子を指してウィルは言った。


「これ、やばいんじゃないか」


 とにかくおまえは中に入れ、とウィル。


 慌ててブラック・シー号に鍵を通す。


「だって、どうしたらいいかわからないし、し、仕方ないよ。あそこには置いておけないし……」


「だからって……」


 ウィルがそう言いかけた時、その子はわたしの腕からさっと離れて、開いたばかりのブラック・シー号の中に駆けて行った。


 子どもの無邪気さゆえか、まるで導かれるように駆け抜けていく。


「う、嘘だろ。勘弁してくれよ……」


「な! ウィルまでそんな言い方しなくても」


 追うぞ、というウィルに泣きたくなる。


「よく考えろ! おまえは人助けのつもりだろうけど見方によってはこれは人浚いだ。簡単に済む問題じゃない」


 ウィルはそれだけ言うと二階の方に姿を消した。


 その言葉は痛いほどわたしの胸を突いた。


 ふたりを追って階段を駆け上がった時、二階にふたりの姿はなく、三階のデッキに急ぐこととなった。


 デッキには大きな満月が顔を出していて、この船まで黄金色に染めていた。


「あっ……」


 声が出なかった。


 先端の方で金色に輝く真っ直ぐな髪をなびかせてポツンとあの子が月を眺めて立っていた。なんというか、不思議な光景だった。

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