不気味なパレード
次に外に出た時には既にどのお店も閉まっていて、あまりに早い閉店具合に驚かされる。
お店を閉めてパレードを行うだなんて、今日は何か特別なイベントでもあるのだろうか。
「この街の人間が盛り上げるって考えると、変に期待しない方がいいかもしれないな」
「そ、そうだよね」
苦笑するウィルに完全に同意しかない。
元気のなかったように見えた街の人間が今から明るく陽気にパレードに参加するというのだろうか。……そ、想像がつかない。
五時を回る頃、突然日は落ち、わたし達の疑問はすぐに解消されることとなる。
「日没までがかなり早かったわね」
光を失った空を見上げ、思わず心の声が出た。
「やっぱりジェクラムアスとは全然違う」
そんなわたしに対し、ウィルが嬉しそうに笑う。
「世界はいろんなことが起こる」
「うん」
同調して深く頷く。
こうしたちょっとした違いさえも新鮮で胸の高鳴りを感じるのだ。
他にももっともっといろんな場所があるのだろうなと想像するとたまらない。
「そういえば、いつまでこの街にいるの?」
「ああ、そうだな。買い出しもほとんど済んだし、ここはこれくらいでいい気もするからな。パレードが終わったら出てもいい」
「そうね。次はどんな所に行けるんだろう?」
まだこの国の全てを知ったわけでもないのになんだかうきうきしてしまう。
「あの地図見たらわかるだろうけど、次からは今回程は早く着かないと思えよ。他の大陸や国はかなり遠いから」
「わかってるって! あ、ねぇ、次は私がボタンの操作をしてみてちゃだめかな?」
「いいけど。食料はいいとして、何か他に買い忘れてないんだろうな?」
「………」
念を押されて言いづらい。
「何?」
「……し、寝具」
「もっと早く言えよ」
「ご、ごめんなさい」
案の上、ウィルを呆れさせてしまうこととなる。
そんな時、けたたましい音とともに四方八方から色とりどりのライトが散りばめられ、パレードが始まりを知った。
それに合わせるかのように同じタイミングで今まで閉まっていた数々の店もいきなりまた開け始められる。
昼間とは違い、チカチカしたライトが飾り付けられていて、美しいというよりも眩しい。
街に奏でられる音楽のボリュームも徐々に上げられていき、気づいたときにはずいぶんけたたましく、耳を覆いたくなくほどだった。
どこからともなく奇抜な衣装(お昼に売られていた衣装で間違いないと思う)に身を包んだパレードの御一行があちこちから現れ、歌やダンスが披露される。
同時に上がる大きな拍手と歓声。
まるでお祭り騒ぎだ。
特に驚かされたのは、明るいパレードの列が何度も行ったり来たりする中、朝はずっとどんより暗い印象だった店員たちが飛び出してきて、陽気に笛を吹いたり踊ったりし始めたことだった。
あまりに不気味な光景に息を呑む。
夜にはしゃぎすぎて朝からは元気が出ないのだろうか。
しかも一番目を疑ったのは、なぜかパレードに出て真ん中で踊っているのは小さい子どもたち。何人くらいいるのだろうか。
「ねぇ、ウィル? 何か変じゃない? このパレード……」
「まぁ、店も開いたことだし、ラッキーだったな」
とっとと退散しよう、とウィルはわざとらしく溜息をつき、先ほどとはまた違う輝きを放つ街の様子に目を向ける。
「俺が買ったのはたしか……」
「働かねぇならどっか行っちまえ、この化物!」
ガヤガヤと騒がしく繰り広げられるパレードの音に混じって微かにそんな罵声がどこからか聞こえた。
目を凝らした先に嫌なものが見えた。
パレードが明るすぎて気付かなかったけど、奥の方の暗い小道で太った男が三・四歳くらいの小さな女の子を罵るように怒鳴り続けていた。
びくっとして身震いしてしまう。
「ウ、ウィル、あれ……」
思わず震えた指先でその先を指していた。
「うわ、あんな小さい子まで怒られてんの? やっぱ変かもな、この街。俺、すぐ買ってくるから!」
「あ、うん。ありがと」
待ってて、と言い残して足早に立ち去ったウィルの後ろ姿がずいぶん遠くに見え始めてもまだ男は怒鳴り続けていた。
周りの人はパレードに夢中で気付いていないのか、それともここでは子供はあんな風に扱われるのが日常茶飯事で気にもしていないのか、誰も助けに行かない。
怖い光景だった。
無機質な瞳で淡々と踊り続ける子どもたち。
親はいないのか?
いや、それはない。
だって、パレードに出ている子供を応援したり写真を撮ったりして、キャーキャー騒ぐ大人たちいるからきっとあれはその子たちの親なのだろう。
でも、あの怒られている女の子に親はいないのか?
それともあの太った男が親なのだろうか?
何度か耳を覆いたくなるような汚い言葉を浴びせたあと、ついに太った男が女の子を蹴り飛ばした。あっと思った時には遅かった。
倒れ込む幼子にそいつはまだ何か言って怒鳴り続け、今度は手を振り上げたのが目に入った。
「ちょっと! やめなさいよ!」
今まで動かなかったことをひどく後悔した。
怖い、と思うよりも先に体は動いていた。