表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/132

父の部屋だった場所

 下りて行くと『タルロット』の部屋から物音が聞こえたからウィルは部屋の中にいるのだろう。


 リビングに残された物はほとんどわたしの荷物だった。


 重いものから順番に『ショーン』と書かれた部屋へ運び込む。


 元々は父のものだった場所らしいが、今日からはわたしの部屋になる。


 そこはどちらかというと生活感がなく、ベッドと箪笥、そして書籍が詰まった本棚が置かれているだけだった。


 無意識でベッドの上に寝転がっていた。


 ゴツゴツと固いけど、ひんやりしていてこれはこれで心地よかった。


 そこで、寝具を買い忘れたことを思い出したけど、あとで考えようとぼんやり思う。


 ここにかつて、父がいたと思うと不思議な心境だった。


 窓の外には海と空が永遠と広がっていて気持ちいいし、最高だ。


 どこからか小鳥のさえずりも聞こえる。


 ふと目を向けた先の箪笥が気になった。


 あまりに殺風景な部屋だけど、父の物が何か入ってないだろうかと体を起こす。


 でも結果ははずれ。


 埃まみれの古いチラシが一枚出てきたくらいだった。


 そりゃそうよね。何年も前のことだし。


「え……」 


 そのチラシに息を飲む。


 それは何だかわからない暗号のような文字で埋め尽くされ、その真ん中には女性の写真が貼られていた。


 かなりの美しい女の子が赤くて何枚にも重なった袴(というものなのかな?)を着て凛とした面持ちで座っていた。


 初めは美しすぎるその人に驚いた。


 真っ黒い髪に長い睫毛を持つ大きな瞳とそれに映えるような赤い果実を思わせる唇は派手な真紅の衣装にも負け劣らず凛としている。


 だけど、どこかで見たことがある。


(いや、どこかどころか……)


 この雰囲気を知っている。


 他人の空似?


 いや、それにしては似すぎている。


 そうだ。


 ここは昔、父の部屋だった所。


 それは確信に変わった。


「ど、どうして……」


 どうしてこの人が……マ、ママが、どうしてこんな物を着てるの?


 まるでお姫様みたいに。


(それに、このチラシは……)


 外の方からボンという爆破音のようなものが連続して聞こえた。


(な、何なの?)


 攻撃でも受けたのかと思って身構えてしてしまう。


「ローズ! パレードが始まるぞ!」


 ドア越しにウィルの声がする。


「パレード?」


「さっき子供が配ってた広告に載ってたんだ」


「え!」


 知らなかった。


「どうする?」


「み、見てみたい!」


 話では耳にしたことがある。


 わたしの街ではほとんど無縁だったけど、王都に近い中央地区などではおめでたいことがあるたびに見られる機会があるのだとか。


「ちょっと待って!」


(難しいことはあとよ、あと)


 広告を慌てて元あったところに戻してからパレードにでかけることとなった。


 とはいえ、はっきり言って、朝から見た心気臭いメンバーの行うパレードってどのようなものなのかと疑問に思ったものだけど、この時、そんな風に感じながらも行っておいて本当によかったと思うのはこれから後のお話。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ