父の部屋だった場所
下りて行くと『タルロット』の部屋から物音が聞こえたからウィルは部屋の中にいるのだろう。
リビングに残された物はほとんどわたしの荷物だった。
重いものから順番に『ショーン』と書かれた部屋へ運び込む。
元々は父のものだった場所らしいが、今日からはわたしの部屋になる。
そこはどちらかというと生活感がなく、ベッドと箪笥、そして書籍が詰まった本棚が置かれているだけだった。
無意識でベッドの上に寝転がっていた。
ゴツゴツと固いけど、ひんやりしていてこれはこれで心地よかった。
そこで、寝具を買い忘れたことを思い出したけど、あとで考えようとぼんやり思う。
ここにかつて、父がいたと思うと不思議な心境だった。
窓の外には海と空が永遠と広がっていて気持ちいいし、最高だ。
どこからか小鳥のさえずりも聞こえる。
ふと目を向けた先の箪笥が気になった。
あまりに殺風景な部屋だけど、父の物が何か入ってないだろうかと体を起こす。
でも結果ははずれ。
埃まみれの古いチラシが一枚出てきたくらいだった。
そりゃそうよね。何年も前のことだし。
「え……」
そのチラシに息を飲む。
それは何だかわからない暗号のような文字で埋め尽くされ、その真ん中には女性の写真が貼られていた。
かなりの美しい女の子が赤くて何枚にも重なった袴(というものなのかな?)を着て凛とした面持ちで座っていた。
初めは美しすぎるその人に驚いた。
真っ黒い髪に長い睫毛を持つ大きな瞳とそれに映えるような赤い果実を思わせる唇は派手な真紅の衣装にも負け劣らず凛としている。
だけど、どこかで見たことがある。
(いや、どこかどころか……)
この雰囲気を知っている。
他人の空似?
いや、それにしては似すぎている。
そうだ。
ここは昔、父の部屋だった所。
それは確信に変わった。
「ど、どうして……」
どうしてこの人が……マ、ママが、どうしてこんな物を着てるの?
まるでお姫様みたいに。
(それに、このチラシは……)
外の方からボンという爆破音のようなものが連続して聞こえた。
(な、何なの?)
攻撃でも受けたのかと思って身構えてしてしまう。
「ローズ! パレードが始まるぞ!」
ドア越しにウィルの声がする。
「パレード?」
「さっき子供が配ってた広告に載ってたんだ」
「え!」
知らなかった。
「どうする?」
「み、見てみたい!」
話では耳にしたことがある。
わたしの街ではほとんど無縁だったけど、王都に近い中央地区などではおめでたいことがあるたびに見られる機会があるのだとか。
「ちょっと待って!」
(難しいことはあとよ、あと)
広告を慌てて元あったところに戻してからパレードにでかけることとなった。
とはいえ、はっきり言って、朝から見た心気臭いメンバーの行うパレードってどのようなものなのかと疑問に思ったものだけど、この時、そんな風に感じながらも行っておいて本当によかったと思うのはこれから後のお話。