王子さまに憧れた女の子
「は?」
いつものくせで勢いよく長年の想い人を大告白しちゃったものだから、ウィルの表情がまともに引きつったのが目に入った。
こういえば大抵の人間はこの話題を二度と振って来なくなる。呆れられるからだ。
夢見がちだの理想が高いだの好き放題言われるのは覚悟の上だけど、望まない好意を向けられたり勘違いをされることよりはいい。
「り、理解してくれた?」
いつも完全に上から目線でからかってくるウィルを呆然とさせてしまったものだから、わたしはやけを通り越して得意げになって続けた。
「お、王子のどこが? そもそも見たことあんのか?」
「ない」
「見たこともない奴が好きなわけ?」
この反応は、よくあることだ。
「ウィルもレイと同じことを言うのね」
「いや、普通言うと思うけど。どんな顔かもわかんない奴が好きだなんて……そんな理由だけで王族と結婚したくなるものなのか」
まぁ、確かにそれはそうだけど……
「ウィルは? 人のこと言えるの?」
疑問しかない。
そんな表情を浮かべているウィルに問いかける。ほんの少しの興味だった。
この人は、どんな女性に心奪われるのかと。
「え? 俺?」
「うん。お姫様と結婚してみたい、とか思ったことないの? 幼い頃とかに」
「な、ないな。しかも、姫も……嫌だな」
珍しく歯切れが悪いウィルが呟く。
「ま、俺みたいな曖昧な生い立ちの人間には姫の方から願い下げだろうけど」
私の反応を気にしたのか、ウィルは慌ててそう付け加えてまたにっこりした。
その笑顔を見て、いくら姫でもウィルになら惚れちゃうんじゃないかな?と素直に思ってしまった。
「ローズは大切なレイよりも夢をとったんだろ? それならそれをとことんやりたいことやりぬいて、胸張って帰ったらいいさ。そんなおまえを見たらレイだって怒れないはずだから」
(ウィル……)
「俺は今も怒ってないと思う」
「ウィル……」
「ん?」
「ありがと」
悔しいけどまた泣きそうになった。
それでもこの涙はいつものものではない。
一生懸命こらえたけど、もしも流れていたらとても暖かな涙だったのだと思う。
「まぁ、後はせいぜい王子に好かれるように頑張ることだな」
「な!」
「さてと、買ってきたものもそのままだし、そろそろ下の整理でもして最後の買い出しにでも繰り出すか」
私たちは一番下の物置を一階、リビングや部屋のある階を二階、そしてこのデッキを三階と呼ぶことにした。到着してから三回ほどは買ったものを運び入れたものだからそれぞれの荷物を片付ける必要があった。
「ウィル……」
自分でも驚くことに、下りていこうとするウィルを思わず呼び止めていた。
「本当、ありがと」
また何か言われてからかわれると思ったけど、ウィルは静かに笑ってデッキを後にした。彼のおかげでずいぶん心が軽くなった。
出会って間もないというのに、本当に不思議な魅力を持った人だと思う。
だけど、これからもレイのことを考えて悲しくなることはあっても、きっとウィルさえいてくれたら大丈夫な気がした。