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それぞれの対価

「ねぇ、ウィル?」


「ん?」


 しかしながら、疑問もある。


「どうしてそんなにいろんなことを知っているのにお金のことはわかっていないのよ」


 あまりに知識が偏りすぎていて今度はわたしも面白くなってくる。


「ウィルの金貨一枚であんなにいっぱい買い物ができて、しかもおつりもたっぷり返ってきた。ね! すごかったでしょう?」


「ああ! 最初に行った店のじいさんも腰抜けてたしな」


「そりゃ、金貨を見たらびっくりするわよ。しかも案の定、おつりがなくって大変だったしね」


 だからひとつのお店でありったけのものを購入必要があり、持ち金がすべておつりに変わってしまっては困ると街外れにある穀物倉庫まで向かわされ、『バンコ』と呼ばれる商人に手数料を支払って金貨を大量の銀貨に変えてもらうこととなった。


「あんな風に物々交換をして手数料をとるなんてお仕事がこの世に存在するのね」


 お金だけではなく、いろんなものを交換して商人たちは去っていく……そんな不思議な空間だった。


 手数料だけでも日頃手にすることのない額を取られてぎょっとしたものだ。


「たしかに。あのときのローズの驚愕っぷりも見物だったな」


 人の気も知らないで、また口角をあげるウィルはどんなときも堂々としていて感心させられた。


 わたしにとっては見るものすべてが新しくて、思い出しただけでも自然と頬が緩む。


 何をしてもどこを歩いても『すごい!』の一言で、楽しい楽しいと心が躍っている。


「よかった」


「え?」


「やっと笑ったな」


 気付くと優しく微笑むウィルの姿が目に入るって思わず息を呑んでしまう。


「さっきもいったとおり、何事にも対価は必要だ。おまえはさっき、俺に頼ってばかりだと言っていたけど、俺は目的を果たすまで、この船から降りるわけにはいかない」


 どうして。


「これはおまえの船だ」


 どうしてこの人は、昨日まで初めて会ったばかりのわたしにこんなにも親切にしてくれるのだろうか。


「その対価はきっちり返すつもりだ」


 律儀なのか?


 それとも、裏があるから?


 全く読み取れなかった。


 優しいのか意地悪なのか、よくわからない。でも、不思議と嫌悪感はない。


 ついつい同意もなく浚ったくせに、とまた憎まれ口を叩きたくなるものだけど、ぐっとこらえるしかなかった。


 その笑顔に圧倒されたからだ。


 日の光はこの男のためにある!と言われても過言ではないくらい眩い粒子を放ってキラキラと輝いて見えた。


 まるでスポットライトをあびた舞台俳優のようだ。


「か、顔だけはいいんだから……」


「え?」


「い、いえ、こっちの話」


 冗談を言い合ってる時ならまだしも、こうして向かい合って急に真面目な様子で見つめられることにはまだ慣れない。


(……あれ)


 驚いたことに、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。


 そういえば、最近の私は不安定だった。


 何をしても、ずっともやもやしていた。


 街にいるときからずっと、行き場のない感情は常に迷子で、どうしたらいいのかわからなくて気を抜いたらめそめそ泣いてしまっていた。


 昨日に比べて今は少し体が軽い。


 これは、久しぶりに笑ったから?


 軽快な音色が心を弾ませ、自然と口角が上がった。


 こんなにも心の底から楽しいと思えたのはいつぶりだっただろうか。

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