穏やかなひととき
一度船に戻り、昼食を取ることとなった。
昼食といってもその時間にはずいぶん遅れてしまったけど、日のよく当たるデッキの上に買ってきたばかりのシートを広げ、ありったけの食料を並べたあと、ふたりしてのんびり休息をとることにした。
あれやこれやと言い合いになってわたしは何度もふくれっ面になったけど、普段は外でなにかを食べるという習慣がなかったため、この空間は心地よかった。
「悪い悪い! もう言わないって!」
まだ目が半分笑ってる、とわたしがつっこめばウィルはまた思い出したように涙目でひぃひぃ体を震わせる。
手に取る大きなパンに器用にナイフを入れ、様々な具材を詰め込んでいくウィル。
その慣れた手つきに驚きつつ、わたしも真似てナイフを差し込んでみるが、これがまた硬い。(つくづく無力な自分が嫌になる)
わたしもなにか、人様の目を引く特技があればいいのに、と思ってしまうくらいに凹んだ。
そうすれば、わたしもわたしの分くらいの生活費は貯められそうなものなのに。大道芸は流石に無理だとしても、だ。
「……なぁ、ローズ」
それでも次の瞬間にウィルが見せた表情は真面目なものに変わっていた。
「ん?」
先程までのおちゃらけた雰囲気はどこへやら。
いきなり態度を変えられると反応に困る。
「なんか変だったな。この街の人たち」
「え?」
「暗いっていうか、覇気がないって言ったほうがいいのか、笑ってても上辺だけって感じだったし、目が虚ろっていうか」
「あ……」
確かに。そういえばそうだ。
外観もその中も何もかもが全てまばゆいくらい明るかったわりに、店員の印象がずいぶんぱっとしなかった。
ウィルの言うとおり暗かったというか、ぼんやりしていて心ここに非ずに見えた。
ウィルは難しい顔でなにかを考えているようだったけど、わたしは初めて食べる甘い果実の数々に感動していてその時はそのことについてはあまり深くは考えていなかった。




