イナグロウ国
どこからともなく奏でられる陽気な音楽。
誘われるようにお店の立ち並ぶ街へ向かう小道を進み、さらに視界が明るくなった場所であれやこれやと必需品の購入に励むことになった。
ここは専門的に商品が集められたお店が並んでいて、いつも市場でその日その場所にしかないお店へ足を運ぶことが主流だったわたしにはもの珍しく、感動させられた。
「……買いすぎたか」
両手を食料でいっぱいにしたウィルが一度船に戻ろうかと提案してくる。
「え? それだけ?」
ウィルに比べて、わたしは小さな紙袋を片手に持っていた。
それぞれ目的のものを買いに行った際、まずは食べ物だと食材を見に行ったウィルとは別に替えの下着や生活に必要な最低限のものだけ購入していた。
「服は買わなかったのか?」
「う、うん」
いつまでも制服でいるわけにもいかず、購入しなければいけないと思いつつ、できなかった。
いざ買い出してみると、生活をしていくには思ったよりもあれやこれやと入用なものが思い浮かび、どうしたらいいのか途方に暮れていたところだった。それに……
「出どころのわからないお金を使うのは嫌?」
「え?」
ウィルが小さく嘆息したように見えた。
「ち、違う!」
(そ、そうじゃなくって……)
「な、なんだか、何をするにしてもウィルにばっかり頼って、申し訳ないなと思って」
想像以上に自分の無力さを思い知らされる。
こんなはずじゃなかった……というよりも、ここまでの状態を想像できていなかった。
「ひとりじゃ何にもできないんだなって……」
「はいはいはいはい! うじうじ禁止!」
「え?」
「今はうじうじしてる状態じゃないから」
俺、お腹減ってんだけど、と呆れた様子のウィルの瞳に私が映る。
ずいぶん情けない顔をしている。
「待っててやるから、早くいけ」
「い、行ってくる」
急かされるように着るものが売られてそうなお店に飛び込むことになる。……ものの、結局私は一着も戦利品がないまま、空腹だと騒ぐウィルについて船に戻ることになった。
一応いくつかのお店には見に入ったのだけど、この街のお店の服はどれもサーカスの人が着るような派手な装飾の服装ばかりで、とてもわたしが着られるようなものはなかった。
探しても探しても通りかかったガラス張りのショーウィンドウに並んだ衣装はあまりに奇抜でわたしを落胆させ、そのたびにウィルは大爆笑して、挙句の果てには船に戻ってからも腹を抱えて笑っている程だった。
「やべぇ、ローズがあんな服着たら……」
想像したら笑いが止まらない、とずいぶん楽しそうだ。
全く持って笑えない。
「き、着るわけないじゃない!」
何がそんなにおかしいのか。
「あ、あああ、あんまりしつこいとウィルの正体ばらしちゃうから!」
「指名手配犯って?」
「うっ……」
何を言っても言い負かされ、ウィルはまた吹き出す勢いで、ますますわたしを怒らせることになった。




