指名手配犯
ウィルは自分のことを知らないかと不思議そうに言っていた。
そう考えると昨日の怪しい姿だって納得ができた。
「あなた、追われている身なの?」
それなら納得がいく。
遠い世界へ行きたいのではなく、あの場を離れたかっただけなのでは……
「まぁ、こんなものが貼られてたりもしたな」
ポケットの中から何かを出したかと思えば、一枚の紙切れを差し出される。
赤というか、オレンジ色に近い髪色で描かれたある男の人物画である。
なにやらそこにはいろいろ書かれていたけど、わたしの思考を停止させるには十分な光景だった。
「し、指名手配犯……」
絶望したわたしの声にウィルは静かに口角を上げた。でも、目は笑っていない。
むしろもうそれ以上聞くなと警告しているように見える。
「ローズ、好奇心旺盛なのは結構だけど、余計な詮索は身を滅ぼしかねないぞ」
決定的なセリフを吐いてわたしを固まらせた張本人は、困惑しているわたしの姿に満足したように今度はいい笑顔を見せて言った。
「さて、決まったな。その金貨で買い物でもしてくるか!」
「かっ、買い物って……ちょっとぉーー!」
いつ身の危険があるかもわからない状況で、のんきに買い物を楽しめとでも?
一難去ってまた一難と言わんばかりに降りかかる問題の数々に頭を悩ませつつも、それなのに、どこかわたしはわくわくしていた。
ウィルの手にする指名手配犯の人物画も見たこともない文字がたくさんならんでいたからだ。
きっと、外国の言葉なのだろう。
それらはわたしの胸を高鳴らせるには十分だった。
とはいえ、つくづく自分で自分が心配になる。
「おまえの服もな」
「え?」
「そのお嬢さんスタイル、大変だろ?」
そういえば、制服のままだった。
この格好のまま動くことは慣れていると言えばそうだけど、これから夢の異国へ踏み入れるというのにその一張羅がこの制服というのは格好がつかない。
そうこうしているうちに全身に響くようなぶぉーんという音がして、壁にかかる大きな世界地図の一部分が赤く点滅した。
「さ、もうすぐ着くぞ!」
「え?」
「イナグロウ国だ」
ウィルの瞳は輝いていた。
顔をあげると窓の外には海が広がっていて、その先に見えた景色に心が弾む。
ウィルに負けじと初めて見る異国地のことを思い、わたしもぐっと胸を熱くしたのだった。