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所持金とこれからの生活

 夜に出発する気満々だったから家にはいくらか軍資金(わたしにとってはなけなしの全財産)を準備してあった。


 今思えばこれからの道中はそれだけで足りるとも思えないし、何より今は小銭程度しか持ち合わせていなかった。


 このままでは行先にたどり着く前に飢え死にしてしまうのではないか。


 考えなしの自分に腹が立った。


「これで、どうだ?」


 ウィルは昨日身につけていた布の中から巾着のようなものを取りだし、私の手の上に乗せた。


「え……」


(こ、これって……)


 ずしっと重みを感じたのも驚いたけど、加えてその中身に腰を抜かしそうになった。


(き、金……?)


 一瞬、巾着の中が金色に見えた。


 まさか、と思ってそれをひっくり返しても、そこには金色のコインが散らばっただけだった。


「ウ、ウィル……」


 反応の仕方を忘れてしまったかもしれない。そう思えた。


「ん? ってか、なに出して……」


「ど、どうして……」


「何が?」


「どうして金貨をこんなに持ってんのよ!」


 叫ばずにはいられなかった。


 わたしたちの国は、金貨・銀貨・銅貨のコインで成り立っている。


 わたしの街でもそこそこ働いて銅貨をもらって、それを貯めて銀貨の価値を得る人は多い。


 市場では銅貨のやりとりがほとんどだし、銀貨を使われておつりがでなかったというお店があることも少なくない。


 金貨なんてほとんど出回っていないものとして知られていて、ましてやこんなに大量の金貨、わたしは見たこともない。(と、いうより銀貨ですら触ったことがないわよ)


「これって使えない?」


 心配そうに聞いてくるウィル。


 ろ、論外。


「ほ、本気で言ってんの?」


 ある意味、街では使えないかもしれない。


 金貨なんて払われたって、街の市場でこれに見合った商品がなければ返却するおつりだってないだろう。


 使えない以前に持っている人はほとんどいないといっても過言ではないし、はっきり言って、一枚でも金貨があったら一年は自由な生活できるのだと思う。


「あ、あなたまさか、お金の使い方を知らないの?」


「いや、そういうわけではないけど……」


 あまりに歯切れが悪い。


「い、今までどうやって生きてきたのよ」


 唖然として言葉にならない。


 なんとなく適当に生きてきた、だなんて珍しく言葉を選ぶように金貨を片付けるウィルにある疑惑が浮かんだ。


「このお金は、どうしたの?」


 自分の声が無機質に感じられた。


「……ここへ来る前にある人からもらった」


「いやいやいやいや」


 そんなわけあるはずがない。


 その日暮らしで生きていたって言っていたではないか。


 考えないようにしていたある思惑が脳裏をよぎる。


「も、もしかして、盗んできたの?」


 ウィルの瞳が見開かれる。


(ま、まさか……)


「だったら、どうする?」


 彼の表情から笑顔が消えた。


 そういえば、「法に背を向けた生き方をしたこともあったし、追われることも少なくなかった」と彼は言っていた。


 ぞくっと身震いした。


 なぜか船に乗りたがって遠い世界へ行きたがった。まるで何かから逃げるように。

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