生活に欠かせないもの
「目的が一緒なだけでわたしの生活に干渉するなって言われたしなぁ……」
ウィルがまた書籍に視線を戻し、どこか声真似をするように呟く。
「……そ、そうですよね」
言いました。言いましたとも。
いくら話しやすいと言っても素性もわからない異性とふたりきり。念には念を入れて、そう言ったのだった。
こんなところで裏目に出ようとは。
「もうパンは残ってないけど、肉でよかったらフライパンにあるから」
「え……」
変わるがわる手に持つ文献から視線を外すことなくウィルは淡々と告げてくる。
「ににに、にっ、肉!?」
思わず叫んでしまった。
「び、びっくりした、何? 苦手?」
うるさいよ、と怪訝そうな表情で耳をふさぐウィルに声が出ない。
「お、お肉って……」
だ、だって、そんな高価なもの、簡単には手に入らないのに。
「いらないの?」
「い、いる! いりますっ! でもなんでお肉なんて……」
わたしたちの街は、海に面していた。
だから漁業は盛んでお魚料理はとても新鮮なものが手に入ったけど、逆に乾いた環境では農作物は育ちにくく、産業動物もほとんどいない。
そのためお肉に巡り会えるのは、とても貴重なお祝いのときくらいだった。
しかも巡り会えたからって食べられるわけでもない。
「だからあそこにある分で最後だって」
驚愕したわたしを全く気にする様子もなく、軽く答えるウィル。
そういう意味じゃない。
「とはいえ、これが最後か……」
そう思うととても食べられない。
わたしは、この航海のことを軽く考えすぎていたのかもしれない。
っていうか間違いなく。
はっきり言って、ダーウィンの魔術か何かで船は動くし、部屋はあるしでかなり快適に過ごせるだろうと思ってたけど、食べ物がない状態はかなりまずい。
「どうする? 買いにでも行くか?」
「か、買いにったって、どこに?」
ここは海の上だ。
魔術でお店でもぽーんと出してくれるとでもいうのだろうか。
あまりに簡単にウィルがいうものだから、彼にはそれくらいやってしまえそうな気がするのも否めないけど……それにしても、
「わ、わたし、ちょっとしかお金持ってないの」
手持ちの荷物を思い出し、目の前が真っ暗になった。
本当に、甘く見ていた。