航海初日、問題発生
翌日、空腹にうなされて目が覚めた。
固いデッキの上で、ここは一体どこなのだろうかと一瞬考えて静止した。
(そうだ……)
わたしは昨日、海に出たのだ。
「い、いたたた……」
よくもまぁこんなところで無防備に眠り込んだものだと反省したくなるくらい、わたしは良く眠っていたらしい。
重い体を起こし、あたりを見渡す。
同時にぐうっとお腹が悲鳴を上げた。
そういえば昨日は朝から何も食べていなかったため、極限の空腹状態に陥っていた。
朝日なのかなんなのか、燃えるような日の光がまぶしい。
いつ眠りについたかは覚えていない。
ウィルと直前まで話をしていた気がする。
途中からだんだんまぶたが重くなってきて眠くなってきたのは覚えている。
ウィルもそんなことを言っていて、気付いたら魔法にかかったように今の今まで爆睡していた。
(む、無防備かつ危機感がないにもほどがある!)
一晩明かし、いささか冷静になったようだ。この上なく自己嫌悪したくなる。
今のことだけではない。
ここまでの経緯全て。
世間知らずのバカ娘状態にもほどがある。
とはいえ、
(そういえば……)
ウィルがいないことに気づく。
(ウィルは、どこに……あっ……)
考えるまでもなく、どこからともなく良い香りがしてきて誘われるようにして階段に向かう扉を開けた。
階下へ続く螺旋階段を下りてみると、まさに香りの出所はそこだったようで、部屋いっぱいに広がった甘く香ばしい香りが何も入っていない胃袋を刺激してくるには十分だった。
ウィルが書籍を広げた状態で床に座り込んで何かを食べていた。
火を使ったのか、ガス台にあるフライパン(こんなものまであったの?)からはまだ湯気が出ていた。
ぐうっと空気も読めずにさらに音をあげる空腹の合図にウィルが顔を上げる。
「お、おはよう」
朝から知り合って間もない男の子がいて、一体どのように対応すればいいのか疑問である。加えてこの攻撃的な空腹はなんとかならないものか。
「い、いい香りね……」
「ああ」
軽く口角を上げ、また書籍に視線を戻すウィルは、それでもただそこに立ち尽くすわたしに再び顔を上げる。
「食べ物、持ってないのか?」
「うっ……」
ちょっとした沈黙が流れるのに、このタイミングでぐぅとお腹がまた小さく主張するものだからたちが悪い。
残念ながら教科書が詰め込まれたカバンはあってもわたしには食料がない。
昨日、ここでなら暮らしていけそうだと確信したのはどこの誰だっただろうか。
生きていく上で最も大切なものを、わたしは持ち合わせていない。
そして、そんな重大なことを今更ながら思い出す。
いきなり生存の危機に直面していた。