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明るい未来へ

「この街だって、シャヤさん以外の女性はみんな王子様扱いだったよ。俺なんてぱっと出の仮初めの王子だってのに」


 そりゃ王子様だもん。


 憤慨するウィルの様子に苦笑する。


「ママに会ったの?」


「うん、さっきな。ローズはきっと海だって教えてくれた」


 し、知っていたのか。


「そのまま浚って、また海に出ちゃてもいいんですか? って聞いたら、できるものならやってみろ、と笑ってた。大したもんだよ、ジパン国の姫君は」


 そこでようやく思い出す。


「あ、あなたこそ……じ、自分のお姫様は平気なの?」


「お姫様……?」


「ほ、ほら、アカメル国の……」


 思い出すだけでやっぱりもやっとしてしまうけど、忘れるわけにはいかない。


「いや、関係ないし」


 わたしの髪をいじりながらウィルはむくれる。


「元々は兄の相手だったんだよ。それを、立場が変わったからっていきなり俺に宛てがってきたんだ、あのくそじじいども……」


 そのくそじじいどもとは……とは恐れ多くて聞き返せなかったけど、その様子にほんの少しだけもやもやした気持ちが緩和された気がした。


「もちろん、くそじじいどもをカンカンに怒らせたよ。どっかの姫が彼女の前で俺の唇を奪ってくれたから……」


「な、あ……あれは……あの時は、必死で……」


 敵に回した規模が莫大すぎてめまいがする。


「かっこよかったよ」


 ニシシ、と笑うウィル。


「あれに惚れない男はいないと思う」


「か、からかわないでよ……」


「嬉しかった。ローズならいつでも大歓迎だよ」


「ばっ、バカ言わないで!」


 真っ赤になって顔を覆いつつ、その時ふとエルスさんが言っていた言葉を思い出した。


「ママがね、そんなに想うのならジパン国の姫として正々堂々と戦えば? って言ってたのよ」


「アカメルの姫と……?」


 ふさぎ込んでばかりいたから提案してきたのだ。それはもうあっけらかんと。


「そう。ママらしいでしょ?」


「らしいな……」


 そしてウィルはじっと私を見る。


「で? どうすんの? 俺を王子に戻したい? それとも……」


 どうすんの?ってそんな簡単な話ではないはずだ。


「ただそばにいられたら文句はないわ」


 自然と頬が緩む。


「そ、それなら……あなたが王子様でなくたっていいわ」


 ウィルはどんなときだってわたしの王子様に変わりはないのだから。


 もちろん、現実問題がそんなに甘いものではないことは知っている。


 だけど、賭けてみようと思った。


 目の前で嬉しそうに笑うこの人と、まっすぐ歩く未来を。


「レイと仲直りした後で、だけどな」


「レ……し、知ってたの?」


「レイに会ったの」


「え……」


「レイもローズのことがめちゃめちゃ大好きなんだってわかったよ」


「そんな……」


「ここへ来て、いろんな人に出会ってローズはこの街で、たくさんの人に愛されてるんだなぁって実感した。もっともっと教えてほしいんだよ。この街でのおまえのことを」


 心地よい波の音に包まれる。


「……な、長くなるわよ」


「臨むところだ」


 それから、わたしたちは暗くなるまで話題がつきることなく、話し続けることとなる。


 ずっとずっとそうしてきたように。


 絡まった指を何度も組み替えて、海の音色を耳にしながら。

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