親友の夢
ローズが街に帰ってきて数日がたったある日のこと、レイチェルは街にある唯一の掲示板の前で彼女とこの国の王子様が写っている記事をぼんやり眺めていた。
この記事が貼り出された時は、みんないっせいに掲示板に集まっていたものだけど、今ではもう誰ひとりとしていない。
記事の中のローズは、王子様を押し倒していたり、キスされて目を見開いていた。
(美しい……)
まるで舞台女優のブロマイドのようだとレイチェルは思わず見惚れていた。
しかしながら同時に、大切な親友がずいぶん遠くに行ってしまったようで寂しくもなった。
確かに、ローズは昔からずっと王子様という存在に憧れていた。
いつまでもいつまでも子どもの頃の夢を諦めることなく、その話になると瞳をキラキラ輝かせて長い長い夢物語を聞かせてくれたものだ。
自分と一緒に進む未来よりも楽しそうに語る彼女に嫉妬して、うんざりしたこともあった。だけど、
(ついに、あなたはその夢を叶えたのね)
絶対に無理だとレイチェルは思っていた。
夢ばかり見ていては前に進めない。
そう思っていたから親友の夢をぶち壊すようなことばかりを告げ続けていた。
だけど、そんな親友は自分の知らないところですべて彼女の話していた夢物語を叶えていた。
彼女の今の心境がどのようなものかはわからない。
それでも誇らしい気持ちに変わりはなかった。
異性に興味を持たず、いつもいつもレイ…レイ……自分と自分の名前を呼んでどこへ行くときもついて来ていたローズ。
彼女のことを思うとレイチェルはまた悲しくなってしまった。
この一年で、一体何があったのか……そう考えずにはいられない。
あの日だってローズがいなくなってしまったあの日だって、本当は自分がいくらきつく言って彼女に背を向けたって、ぶつぶつ言いながらも彼女はすぐに付いてくると思っていた。
恥ずかしいほどに自惚れていたのだ。
その日から彼女が姿を消すだなんてあの時は微塵も思ってもみなかったのだ。
後悔しても後悔しても、もう遅かった。
そして一年の月日が流れ、再びこの街に戻って来たローズはすっかり変わってしまっていた。
近づくには少々躊躇うほどきれいになっていたのは、彼女の母親譲りだろう。
レイ、と自分の名を呼ぶその声は変わらず、同時にずいぶん大人の女性になったなぁと思ってしまった。
「な! くそ、こんな所にもあった!」
レイチェルの後ろで誰かがそう言い、掲示板から広告を思いっきり引きちぎるのが目に入った。
あまりの振る舞いに大丈夫だろうかと恐る恐る振り返った彼女は息を呑む。
見たこともない美形が目の前に立っていたからだけではない。
髪の色は違っているものの、なんとそこにはローズと共に記事に載っていたウィリアム王子その人が立っていたからだ。
「お、王子様っ!」
「ウィル」
思わず叫んでしまうレイにウィリアムはきっぱり即答した。
(う、うそでしょ……)
唖然としてしまう。
立っているだけでこの表現が合っているのかわからないけど彫刻のように美しくて、恐ろしいほど整ったその容姿は絵本で見た王子様そのままの姿であった。