レイチェル・ミーガン
闇のような漆黒色の、あのダーウィン・スピリの幽霊船が再びジェクラムアスの西の街の浜に戻る。
それを見ていつの間にか集まり、今か今かとその扉が開かれるのを待ち続ける人々。
その中には、とても大切な女の子が乗っているのだと街の誰もが知っていた。
レイチェル・ミーガンもその中にいた。
オレンジ色の長い髪を二つに結い、制服の裾を握りしめていた。
親友の帰還は、中央地区から回ってきた一方により、判明した。
この国、ジェクラムアスの第二王子をたぶらかせた悪女として、彼女が扱われていることを知った。
(ローズ……)
あのローズが返ってくる……
そう思うと彼女は周りの街の人々同様に居てもたってもいられなくなっていた。
(ローズ……)
彼女が親友だったローズと会わなくなって早くも一年ちょっとで、あの日以来会っていない。
(ローズローズローズ……)
あの、甘えんぼで泣き虫なローズが船とともに消えた日以来だった。
自分が彼女にどれだけひどいことを言ったのかもわかっている。
許してもらえないかもしれない。
だけど、この一年ちょっとの間、ずっと会いたくて会いたくて仕方がなかった。
ずっとずっと謝りたかった。
ローズが浚われたという噂を聞いた。
血の気が引いた。
それからどこかの国で、子どもを浚ったという噂も。
そしてつい先日、掲示板に貼り出された彼女と王子様の記事。
「おい。ローズちゃんが下りてくるぞ!」
どこかで人が騒ぎ出す。
どんなことを言われていても、この街の人間は彼女のことを疑わない。
だって、ずっと家族だったのだから。
いつまでも大切な大切なローズなのだから。
その時船のドアが開き、ひとりの青年に支えられながらローズが下りてくる。
レイチェルは彼女を見て息を呑んだ。
(ああ、ローズ……)
一輪のバラが咲き誇ったようだった。
一年前よりも増して美しく、大人びたレイチェルの知らない親友がそこにいた。
あの記事を見るからにこの一年いろいろあったのだろう。
いつもニコニコしていたあのローズの顔には笑みはなく、彼女は悲しそうにただ俯いているだけだった。
「ロ、ローズ……」
思わず人をかき分け前に向かう。
「ローズ……」
(ローズ……ローズローズローズ……)
レイチェルは自分の前を行こうとする彼女に向かって呼びかけていた。
「ローズ!」
「レイ……」
はっとしたローズは顔を上げ、そしてレイチェルに気付いてうつろな瞳で力無く微笑んだ。
「ローズ!」
「ごめんね。ローズさんはお疲れだから……」
後ろにいた青年が苦笑し、それからはまた顔を強張らせて俯いたローズをカバーする。
そのままローズはレイチェルを気に留めることなくエルスに支えられながら彼女の家に向かって歩いて行った。
後を追いたいのに、足が動かなかった。
ごめんね、って言いたいのに、できなかった。
「……っ」
レイチェルは自分が涙を流しているのに気が付いた。