王位を継承する者
色とりどりの装飾が施された王座の間には眩いほどの光を放つシャンデリアが吊るされていて、大理石の床にきらきら反映する。
その中央に座る大柄の男が微笑む。
このアカメル国の王である。
「よくぞ帰って来てくれた。君が誘拐されたと聞いた時は、娘もわたしも……そしてこのアカメル国の民はみな、生きた心地がしなかったのだよ、ウィリアム王子」
王への謁見というよりも、何人かの兵士に取り押さえるようにジェクラムアスの第二王子、ウイリアムは両腕を掴まれ、かろうじてその場に立っていた。
「手荒なことをしてすまなかった。それでも我々は本当に君のことを心配して……」
「彼女はどこです?」
王子の声が鋭く響く。
「ああ、もう心配はいらん。あの女は既に拘束しておるよ」
その言葉に目に見えて殺気立った雰囲気を醸し出した王子を驚いた様子でアカメル国の王は眺める。
これがあの、いつも柔らかい物腰で笑顔を絶やすことがなかったあの温厚な王子なのだろうか、と。
「ウィルアム王子、一体どうした? 君らしくもない、取り乱して……。それに、ある街の者の話では君からあの女に口づけしたという話も耳にしておる」
「ええ、その通りです」
王子は不敵に微笑む。
そろそろ我慢の限界だったので、と小さく呟かれた言葉を何人の人間が聞いたことだろうか。
ざわつく周りの観衆。
「何を言っておるか!」
王は顔を真っ赤にし、そして勢いよく立ち上がる。
「君には我が娘、アネリアという婚約者がおるではないか!」
王子を掴む兵士の力が強くなり、側近らしき男たちが怒る王を宥める。
「お言葉を返すようですが、アネリア姫はわたしにはもったいないお方です。そのことは何度も我が父王には伝えております」
「なっ!」
「それに、王位後継者である王子は兄です。彼がいる限り、わたしは王子に戻るつもりはありません」
きっぱり言う王子。
深緑色の瞳が強く光る。
「ローズを離してください。彼女は……彼女はわたしの、命の恩人です」
ワナワナ怒りと絶望に震えている王をしっかり見て静かに言った。
いつもの彼のように。