~第4幕~
伊達賢治は何者かに襲われた――
彼が華崎鮎美との会食を済ませてホテルからホテルへ移動している時のことだ。
屈強な体格をした男2人に殴る蹴るの暴行を受け、その場をなんとか逃げ切って病院へ向かった。
複雑骨折もしてしまい、彼は全治1週間の重傷を負った。
当然ながら吉原買収の話は一旦ストップする事となる。
「吉原の手配した輩か?」
ホテルのロビーでスマホ越しに衝撃のニュースをみるのはクリスタルエデン共同代表を務める野田栄一郎氏。
「わかりませんね。タレコミだと吉原は一切関与してないと申されているみたいですが……」
「伊達君を誘った華崎も怪しいな。どう動けばいいか」
野田と話すのは野田の付き人を長年務めている和月。野田よりも年季の入った老獪マネージャーだ。
「高平が株の買い取りは一旦ストップするそうです」
「そうか」
「今回の襲撃の犯人が何者か突きとめるのが先決だと」
「高平が判断したのか?」
「いや伊達さんが……」
「伊達君が?」
結局、野田はホテルの部屋に引き返した。それから優と電話で話し合い、暫く事態を静観する事にしたのだ。
しかしその翌日の午前中には更に大きな報道が世間を賑やかす。
一度売り払った吉原興行の株を再び民放各局が買い戻すというのだ。
優も野田もスマホ越しに口を開けて呆然とした。
松薔薇氏自殺の件より吉原の風当たりは酷く悪化するものとなったのだが……
ここにきて突然寄りを戻すとはどういうことなのか?
賢治もスマホ越しにニュースをどんどん読んでいく――
続報は止まなかった。
賢治を襲った犯人2人が警察署に出頭したのだ。案の定2人ともが暴力団員だったが、その動機を「伊達賢治がムカついたから」というものでがんと言い放つばかりで。
世間はこの日、何が舞台裏でおこっているのか騒ぎに騒ぐ。
いずれにしてもクリスタルエデンによる買収騒動は結局「なかった」ことになる。
「もしもし。江川君、電話大丈夫か?」
『あ~ちょうど掛けようと思っていたっすよ』
「これは事実を究明しなければならないなぁ」
『僕らはいま吉原じゃないですし、吉原は何も明かさないでしょうね』
「となると難しいか」
『難しいでしょうね』
「我々のすべき事は何だろうな」
『さぁ、アイツに聞いてみないと分からないですね』
「彼は今も狙われ続けているかもしれない。安全に護らねば」
『そこは同意。でも僕らの事務所所属でテレビを活躍の場にしているコたちもいる。そのコたちがテレビから活動の場を取り上げられるとなったら、ソレは僕らの失態にもなる。こないだ吉原のコたちがウチに続々と移ってきたみたいに、ウチからドンドン出ていく事態も防がないと……』
「悩むことばかりだなぁ」
『それを覚悟ではじめたのでしょ?』
「まずはウチのボスを護る事からか」
『そうですね。そこから』
「入院先の病院は?」
『それが全く分からなくて……」
「ええっ!?」
伊達賢治はこの騒動のなかで身内とも音信不通になる。
彼は病院で治療を受けて間もなく退院したという。
嫌な予感が2人の頭の中を過り、言葉にできない不安に駆られた――