EPILOGUE:メディア王に誰が鳴る
2024年4月1日、話題の人気ドラマがはじまるーー
俺は煙草を吹かしながら、テレビの画面を眺める。
世間一般じゃ学校や職場でこのドラマの話題が持ち切りになるのだろう。
でも、職場で仲良くしているスリランカ人の同僚は観てすらもないと思う。
じゃあ自分が学生だったら?
いやいや、元来から根暗の自分の事だ。聞き耳をたてるだけで精一杯だろう。
そんなことを妄想しつつドラマの物語のなかに入ってゆく。
面白い。これは確かに面白いドラマだ。
こんな小説を書ける自分だったら人生違っていたのかもな。
そんな事を想いつつつドラマを観終わったあとはSNSで感想の交換会。
時代の風雲児、伊達賢治が手掛けるテレビドラマだ。日本中のトレンドを席巻してしまうのは自明の理だ。そうなればアンチが湧くのもごく自然な事だが「面白かった」と自分と同じ感想に溢れている電子文字を観て自分の感覚が間違いない事に安心する。
気がつけばもう朝になっていた。1時間ぐらいは休んで出勤しよう。
その認識が甘かった。
彼は半年ぶりに遅刻した。半年ぶりだ。
上司からこっぴどく叱咤を受けた。
最悪のモチベで始まった仕事はミスの連発。あわや事故一歩手前の出来事も。
高齢者介護の仕事を頑張って15~16年。今日が1番最悪な日だ。
しかし今日はこれで終わらない。
帰り道で同じく仕事帰りと思われる壮年と自転車同士でぶつかった。
「いってぇな!!! きをつけろや!!!」
幸い向こうには傷がなかったらしい。こっちは手足に擦り傷ができて出血も。
「ははは。どんくさいな」
思わずため息と独り言。行きつけのコンビニでひとまず絆創膏などを買う事に。
今日は思いを寄せている店員さんがいない。
そう思っていたら、コンビニをでたところで男と手を繋いで歩く彼女を見かけた。
ああ、彼氏ができたんだ。
途端に何もかもやる気のようなものがなくなった。
立ち尽くす。
何もなく。
そもそも自分に何もなかった。生まれつき発達は平凡な人に遅れて変わり者で嫌われ者。
そんな自分を何とかしたくていっぱい友達をつくろうと頑張った。
それでも友達なんてそんなにできなかった。
恋愛に挑もうと告白した事も。婚活に参加した事も。
全部が全部裏目にでた。ただ情けない自分をこの現実に映しているだけで。
涙がでそうになる。それでも夜空に浮かぶ星空を見あげてグッと堪えた。
これがどうしようもない俺の人生なのだろうか…………
「よぉ」
声がした。振り向くとそこに有名人がいた。
「伊達賢治さん!?」
「…………………………」
彼は何も言わない。じっと全体をみて近寄る。
彼は俺の肩を掴んで軽く揉んで微笑む。
何でこんなところに彼が来ているのか?
そして何でもない一般市民の自分に何の用事があるというのだろうか?
「あの、何で広島に来られているのですか? 何かの番組?」
彼は本当に何も喋らない。
俺に一目会いに来ただけみたいな感じでここに居る。
「あの、写真かサインか……!!」
急いで鞄からスマホかメモ帳を取り出そうとするが、そうしているうちに彼は消え去ってしまった。
「伊達君?」
今度は女性の声。
振り向くとこの眼前のコンビニで働く長谷川美佳さんが話しかけてきた。
彼女はかつて俺が想いを寄せていた人。だけど縁がなかった人だ。
「こんばんわ…………」
「どうしたの? こんなところでボーっとして?」
「いま、伊達賢治が目の前に突然現れて…………」
「えっ!? マジで!? どこにいるの!?」
「わからない。幻かも」
「あはは。頭大丈夫?」
「うん。多分。でも、声をかけてくれてありがとう。塩崎さんって彼氏いたんだね」
「萌夏ちゃんのことが好きだったの?」
「うん。ちょっと意識していた」
「片思いの恋が多い男だね」
「そうでもなきゃやってられないよ」
「慰める訳じゃないけど、伊達君って伊達賢治にちょっと似ているよね」
「あんなにカッコよくないよ…………」
「オシャレ頑張ってみたら? じゃ」
このまま終わったら今日は良かった1日になろうだろうか?
いや、黙ってなんかいられなかった。
「あの! よかったらブロック解いてくれないかな!」
自然と大声がでていた。
「うん。友達ならいいよ」
彼女は優しく微笑む。
そして翌日、彼女とLINEができるようになった。
俺の生きている現実世界はテレビやヨウチューブに映るようなキラキラした世界じゃない。
でも、どうなのだろう?
テレビの向こう側も舞台裏じゃ競争がおこっている訳であって。その中を生き残るのも俺たちが生きているこの世界を生きるよりよっぽど息苦しいのかもしれない。
あの日、俺の目のまえに現れた伊達賢治が本物だったとしたら何を言いに来たのだろうか?
わからない。そもそも錯覚だったのかもしれないし。
だけど、彼はなんか温かった。
まるで俺が主人公で彼が脇役のキーマンになっているかのような瞬間を与えてくれた。
あそこでボーっとしていなければ長谷川さんは話しかけてくれなかっただろうからな。
そうだ。これを小説にしよう。
タイトルはそうだな。
メディア王に誰が鳴る。
コレでいこう。
∀・)最後まで読了ありがとうございました!この話ってもう別の作品と世界が繋がり過ぎちゃっていて(笑)でも、この作品がこのタイトルになった所以を分かって貰えたと思います。そしてそもそもソレがこの作品の狙いでした。芸能界で輝いている人達だけが主人公じゃないんですよ。僕たちの人生はね。
∀・)さぁ盛るに盛った『DROP OUT~林萌香の生きる道~』乞おう御期待ください☆☆☆彡




