~第12幕~
テレビドラマ「DROP OUT~林萌香の生きる道~」の撮影が始まった。
放送開始は4月1日。長編ドラマになるであろうと言われているドラマの撮影だから数カ月前には開始されるべきもの。しかし、その製作が突然発表されて原作の書き起こしも含めてほぼ1カ月まえの強行スケジュールで進行しているのだから誰しもが不安にならざるえなかった。
「じゃあ、今から綺羅さんは猫になって。五味君は犬になって」
「はい?」
「具体的には?」
「う~ん、何となく想うがままに。それを撮らせてくれ」
「あの、コレって撮られて何かで公開されるのですか?」
「あ~そういう事はしないよ。ただイメージが欲しくて」
五味秀一はその場で迷うことなく四つん這いになってワンワンと吠えた。
もともと大俳優の息子で役者としての実力も認められた彼にしてみれば、お安いの御用だった。が、国民的アイドルにしてあの松薔薇とやりあったキャリアもある綺羅めくるは安く動かない。
「あの、これってハラスメントになりますよね? どうしてもやれと?」
「やって貰わないとイメージができない。どうしても断るなら逆にネタにしておくよ」
「はぁ!? それって脅しじゃない!?」
「イチイチうるせぇな! 女優でここに来ているのだろうが! お前も仕事しろや!」
「あ~2人とも喧嘩はやめて。時間が押しちゃうから」
撮影が始まったものの、伊達賢治監督が謎の打ち合わせをしまくるせいで何も進捗がなかった。
撮影の合間で出演女優の蒼月しずくと近藤勇美が会話を交わす。
しずくはコーヒーを片手に。勇美は煙草を片手に。
「このドラマの話ってどこから降ってきたのですか?」
「いやぁ~それはウチにもわからないわ。でも、あの件からウチの会社が急激に力を持つようになったというか何と言うか」
「あの件って?」
「吉原興行本社に監督と江川さんが行った事あったでしょ。翌週になって江川さんの指がなくなっていたあの件」
「あぁ~そんなニュースがあったような」
「ウチの記憶が間違ってなければ、あのあたりで急にウチの会社が吉原に替わって漫才王GPの運営に抜擢されるわ、テレビ番組の枠を急にたくさん貰えるようになるわで」
「ふうん。でも、どうやら聴く限りソレで間違いないようですね」
「蒼月さんってば週刊誌の記者さん?」
「いいえ。でも、この世界で生きていこうと思ったら、ある程度は情報通でないと?」
「怖いなぁ~」
「勇美さんは元々女優志望でしたっけ?」
「うん。そう。よくご存知で」
「あの監督のもとで仕事をするのは大変でしょ」
「はは、でも慣れちゃったというか何と言うか」
「私はカットを60回以上も撮らされましたよ?」
「えっ?」
「確か『1999』だったかな」
「さすがに60回はないかな」
「長谷川美佳ってキャラクターに思い入れがあるのでしょうね」
「もしくは監督が蒼月さんの事が好きな線とか?」
「だったら撮影後にも付きまとってきますよ(笑)」
「う~ん、じゃあ……」
「あの人はずっと誰かの何かに執着しているのだと思います。それだけは確かでしょうね」
しずくの視線の先に俳優の如月湊と打ち合わせをする賢治の姿があった。
その打ち合わせは湊から呼びだされたものだった。
「海斗くんはこんな事を言わない?」
「はい。そう思います」
「君は原作を読んだ事があるのか? まだ世にもだしてない原作を?」
「そういうワケじゃあないのですけど、ちょっと違和感があって……」
「違和感?」
「監督はこういうセンシティブなパーソナリティを打ち明けられた事があるのですか?」
「44年も生きてきたからな? 何度かあると思うよ?」
「分かりました。僕の友達にもこんな個性を持ったコたちはいます。でも、こういう事ってまず赤裸々に言えないってその友達っていう友達のみんなが言うんです。」
「なるほど。その君の友達はその君の友達で生まれながら何かの特徴があるからなのかもしれないけど、頭を働かせようにも働かせる事が充分にできない特徴を持った奴だっている。林海斗くんっていうのはそういう個性を持ったコなんだよ。あぁ~だから俺もそういう人間であってね。今こうして俺が話しているのも勇気がいることなんだけど君にそれがわかるかな……?」
告白に告白で返す監督がいた――
如月湊はのちに自身の自叙伝なる書籍でこの話をするのだが、そのときには彼と賢治が抱えるものも世に受け入れられて広まっていた。しかしそういう世の中になるまでに多大な年月を要したことは想像に難くないことだった。
∀・)劇団になろうフェスの公認アクターさんを怒涛の如く登場させたの巻でありました(笑)最終回が近づいております。また次号ご期待を。




