~第9幕~
「漫才王になろうGP?」
「中途半端に文字数が増えていません?」
「ええ。ですからそこで審査員を御二方にお願いしたいと」
漫才王GP最後のチャンピオンと謳われた「令和ロマンス」の2人にリニューアルする漫才王GPの審査員オファーがきた。
令和ロマンスが優勝したその時に松薔薇の性加害疑惑が報じられ、彼らの活躍は例年みる漫才王GPチャンピオンたちと比べても少し寂しいものがあった。勿論テレビにこそ引っ張りだこではあったが、例年のチャンピオンたちほど稼いでもない。自分達のヨウチューブでも駆使しないとトレンドとしても弱かった。それでもそのなかで吉原の上層部とも掛け合い、漫才王チャンピオンとして2連覇に挑戦をするという前代未聞のチャレンジに臨もうとした。そのタイミングで「漫才王GP終了」の報道。松薔薇の訃報を受けてのGP終幕――
松薔薇に呪われたキャリア。そういう文言をSNSで幾万と目に。
チャンピオンになって2年目、そしてリニューアルするGP。
彼にはこみあげる複雑な想いがあった。
「松井君だっけ?」
「はい!」
「俺達にこの話を振ろうって言いだしたのは社長さんか?」
「はい!」
「田口さん、でも、コレはチャンスかもしれないですよ?」
「軽くのるな。小雪。場合によってはエセ案件だ」
「そ、そうですけど……」
松井は時計をみて溜息をつく。
「おい、今のはどういう態度だよ? 坊主?」
田口はたまらず怒りを露わにした。
「いや、お断りされるならば、その場限りでいいと言われてまして……」
「ああ? 何様だよ?」
「ああ、そう言われたら、こう答えろと『ダテケン様だ』と」
苦笑いが自然と浮かぶ。
が、その場限りでいいとは?
「候補は他にもいるっていう話か?」
「ん~それは教えられませんねぇ~」
「田口さん、コレって蹴るには……」
手に汗が自然と浮かぶ。
が、これは甘い罠なのか千載一遇のチャンスなのか?
「それでは私も他に仕事がありますので。ああ、社長からは今回の事は別にオープンにされても構わないとの事です。ただしあからさまな侮蔑や誹謗中傷は法的手段をとりますのでご了承を」
さっと参考書類を硬いバッグにしまい、松井は颯爽とでていこうとした。
「待って!」
ドアの手前で令和ロマンスの田中小雪が両手を広げて松井の前で立ち塞がる。
「田口さんが駄目でも!! 僕は!? 僕だけならばオファーを受けても!?」
どういうつもりだ?
田口は長年連れ添っている相方の顔をみた。
それはもう完全に欲望に呑まれた男の顏そのものだった。
「やられたな……」
誰にも聴こえない小声で田口は呟く。
そして令和ロマンスの2人はこの審査員のオファーを受理する事となった――
『お~話を聞いたで。ダテケンよぉ』
「どこで俺の電話番号を?」
『そんなもん、簡単に手に入るわ』
「ふふふ、さすがテレビの頂点に立った男」
『アホ抜かせ。昔話や』
「いまどこに?」
『教えてやるものかい』
「じゃあ俺に電話をかけた理由は?」
『漫才王の取締になるのやろ?』
「おや、耳が速い」
『じゃなきゃお前になんか電話しないわ』
「はっはっは」
『お前はあの大会をどうするつもりや?』
「え?」
『どんな大会にしたいのか聞きたくなった』
「みんなが楽しんでくれたらいい。島村さんや松薔薇さんが審査員でいらっしゃったときの歴史を俺なりに受け継いで続けるつもりです。でも、そうだなぁ……できるなら可能性を広げたい。そこは島村さんや松薔薇さんがいらっしゃったときの雰囲気とまた変わってくるのかもしれません。だけど、勘違いして欲しくない事が1つありますね」
『1つだけか?』
「はい。1つだけ」
『なんや? 世代交代するしないの話かいな?』
「俺は松薔薇さんが今でも大好きです」
『………………』
「どうかしました?」
『いや、目から汗がでてきて……』
「安心してください。島村さんほど彼と俺は繋がっちゃあいない」
今夜もグラスに入った好物を飲み干して東京の夜景を眺める。
「そういやぁ島村さん、中本って男と桜庭龍桜会ってご存知です?」
『やっぱり会ったのか……」
「ええ。島村さんのお友達ですか?」
『知人ではある。その話するなら、もうこの電話は切るで……』
空になったグラスの水滴を回しながら彼は呟いた。
真実なんて知ってしまえば呆気のないもの。
だけど墓場までソレを持っていくのはどんな仕事よりも重たい闇なのだと。
∀・)お久しぶりです。コロナになってしまって執筆ができずでした。でもなんとか治したので御安心してください。ご心配をおかけしました。
∀・)芸能界の闇を書いている本作。今晩より隔日21時で更新してゆきます☆☆☆彡




